アスベストの歴史と建物への影響を整理しよう

建材として使われたアスベストの歴史的背景

アスベスト(石綿)は、1920年代から日本国内で建材として幅広く利用されてきました。初期はその優れた耐火性や断熱性が注目され、さまざまな建築に取り入れられてきており、2006年の原則使用禁止まで長らく使用されていました。ですが、1975年に飛散性の高い吹付け材が禁止されたのを皮切りに段階的に規制が強化されていき、2012年にはすべての例外措置も撤廃されて完全に使用が禁じられました。

そのため、2006年よりも前に建てられた建物には、今もアスベストが含まれている可能性があります。特に築30年以上の物件を保有・管理している法人にとっては、今後の改修や解体時にアスベストが問題となる可能性があり、事前に調査や対策を講じておくことが重要です。

このような背景から、あらかじめ建材にアスベストが含まれているかを把握しておくことは、工事の計画、リスク評価、見積もり、そして法的な対応のためにも欠かせないステップといえるでしょう。

段階的な規制から全面禁止に至るまでの流れ

アスベストはかつてその耐熱性・断熱性・電気絶縁性の高さから、さまざまな建材に活用されていました。しかし健康被害が社会問題として認識されるようになり、日本でも段階的に規制が進められました。

・ 1975年:飛散性の高い吹付けアスベストの使用が禁止される
・ 1989年:クロシドライト(青石綿)とアモサイト(茶石綿)の製造・使用が禁止される
・ 2004年:アスベスト含有率0.1%以上の製品が製造・輸入・使用ともに原則禁止となる
・ 2006年:「原則禁止」が法令に明記される(※一部製品には例外措置あり)
・ 2008年:大気汚染防止法が改正され、解体時の事前調査が義務化される
・ 2012年:すべての例外措置が廃止され、アスベストの完全使用禁止が実現

このように、規制は30年以上の歳月をかけて整備されてきたため、アスベストの有無を確認するには「築年数」だけでなく「施工時期」や「資材調達ルート」も含めて慎重に判断する必要があります。企業は、法規制の変遷を正しく理解し、自社の物件における法的リスクと対応方針を明確にしておくことが欠かせません。

https://www.mhlw.go.jp/content/000919437.pdf

石綿則に基づく事前調査の アスベスト分析マニュアル 【第2版】厚生労働省

時代ごとに異なる使用傾向と建材ごとのリスク差

アスベストが使用された建材は、年代によって種類や用途が大きく異なります。そのため、建物の築年数だけでなく、どのような建材が使われているかも重要な判断材料になります。

・ 1970年代以前:飛散性の高い吹付けアスベストが多く使われ、天井や柱の耐火被覆材として使用された。リスクが最も高いレベル1に該当する。
・ 1980年代:スレート、Pタイル、ケイ酸カルシウム板など、非飛散性の建材が主流となった。リスクが比較的低いレベル3だが、解体時に粉じんが発生するおそれがある。
・ 2000年代初頭:一部の建材では例外的にアスベスト使用が認められていたため、規制強化後に建てられた建物でも、在庫品や輸入材の使用により含有している可能性がある。

このように、アスベストのリスクは築年数だけでは見極めが難しく、使用された建材の種類や調達時期を踏まえて総合的に判断する必要があります。

建物の種類ごとに見るアスベストの使用箇所とは?

アスベストが使用された部位は、住宅・ビル・工場といった建物の種類によって異なります。適切な対策を講じるためには、それぞれの建物でアスベストが使われやすい箇所を把握しておくことが重要です。

たとえば住宅では、屋根材や外壁材、床材(特にPタイル)などにアスベスト含有建材が使用されることが多く見られます。ビルにおいては、空調ダクトの保温材や天井断熱材、機械室の防護材などが該当し、大型施設ほど多くの場所に使われている傾向があります。

一方、工場ではボイラーや配管の断熱材、耐火壁に使用される吹付け材、さらには電気系統の絶縁材としてもアスベストが活用されていました。煙突や排気ダクトに含まれているケースもあり、工場特有の設備全体に広く関わってくるのが特徴です。

こうした使用箇所の特定は、リスク評価や除去計画に直結する非常に重要なプロセスです。改修や解体の前には、図面や施工履歴を確認し、専門業者による現地調査を実施して、アスベスト含有の可能性がある建材と場所を明確にすることが必要です。

築年数だけで判断できる?アスベスト含有の見極め方

建築時期とアスベスト使用の関係を正しく理解する

アスベストの使用時期と建物の築年数には一定の相関があります。特に2006年以前に建築された建物では、アスベストを含む建材が使われている可能性が高いといえます。

しかしながら、築年数だけでは正確な判断は困難です。というのも、規制の過渡期に建築された建物では、禁止前の在庫建材が使われていたり、一部の工事で旧建材が残っていたりと、新旧の材料が混在していることもあるからです。

そのため、築年数はあくまで「目安」にとどめ、実際には使用された建材の種類や施工履歴、改修の有無などを総合的に確認することが必要です。とくに法人においては、複数物件の建設時期や建材情報を整理・一覧化し、アスベストリスクの管理や将来的なコスト見積もりに役立てることが重要でしょう。

専門知識なしの判断は危険!自己判断が招くリスクとは

アスベストが使われているかどうかを、築年数や見た目だけで判断するのは非常にリスクの高い行為です。アスベスト含有建材は外観上、非含有のものとほとんど区別がつかず、誤って通常の建材と同じように処理してしまうと、法令違反や健康被害につながるおそれがあります。

また、法人の場合は作業員や周辺住民の安全配慮義務、行政への報告義務が課せられており、安易な判断で工事を始めると、重大なトラブルを引き起こしかねません。もしアスベストが飛散すれば、損害賠償請求や企業イメージの毀損といった深刻な影響が生じる恐れがあります。

このようなリスクを回避するためにも、アスベストの可能性がある場合は、必ず専門業者による調査を実施し、法令に基づいた正しい対応をとることが不可欠です。

どんな時に調査が必要?アスベスト調査の基本と進め方

リフォーム・解体工事前に押さえるべき注意点

アスベストが含まれている可能性のある建物をリフォームまたは解体する際には、法律により事前調査が義務付けられています。調査は有資格者によって実施され、目視による確認、設計図書の精査、そして必要に応じた試料採取・分析などが行われます。

調査結果に応じて、アスベストの除去作業や飛散防止措置を講じる必要があり、解体工事を行う場合には着工前に結果を行政へ報告する義務もあります。これを怠ると罰則の対象となるため、注意が必要です。

また、こうした調査の有無は、工事のスケジュールやコストに大きく影響します。法人としては、計画段階でアスベスト調査の必要性を確認し、工事工程や予算にきちんと組み込むことが非常に重要です。

法人として知っておきたい法的責任と罰則内容

アスベストに関する法的義務は、主に「石綿障害予防規則」や「労働安全衛生法」に定められており、法人には多くの遵守事項があります。たとえば、事前調査の実施、結果の掲示、作業計画の提出、隔離・飛散防止措置の実施などが求められます。

これらの義務を怠った場合、行政からの是正命令や指導が下されるだけでなく、最大50万円の罰金が科されるケースもあります。また、従業員の健康被害や近隣住民とのトラブルが発生した場合、損害賠償や信頼失墜といった深刻な事態を招く可能性もあります。

このようなリスクを防ぐためには、法人内で最新の法令情報を常に把握し、担当者間で情報共有を行うことが必要です。社内体制を整え、アスベスト対策に関する法令遵守を徹底することで、企業としての社会的責任と安全管理の両立を目指すことが求められます。

まとめ|アスベスト対策は専門調査と法令順守が鍵

法令遵守は企業の基本責任として徹底を

アスベスト対策は、ただ建材を確認するだけではなく、「石綿障害予防規則」や「労働安全衛生法」などに基づいた法的義務として法人に課されています。これらの規則は、従業員や作業関係者の健康を守るとともに、企業が果たすべき社会的責任を明確にするものです。

工事前の調査から行政への報告、作業計画の策定、飛散防止の実施、そして工事完了後の報告まで、一連の流れを適切に管理・実施することが、法令順守とコンプライアンスの観点からも不可欠です。

安全配慮は社内外すべての関係者に対して行うべきもの

アスベストへの対応には、法律の順守だけでなく、従業員・建物利用者・周辺住民などすべての関係者に対する安全配慮義務も含まれています。調査や除去に不備があった場合、健康被害の発生リスクが高まり、企業としての信頼が大きく損なわれかねません。

そのため、専門業者に調査を依頼する体制づくりや、社内マニュアルの整備を通じて、万全な対応体制を事前に構築しておくことが重要です。

建物の資産価値維持と法人の信頼性向上にも直結

アスベストに関する調査・対応の有無は、建物の資産価値や将来的な取引の信頼性にも大きく影響します。売買や賃貸時においても、アスベストに対して適切な対策がとられている建物は、価格面や契約上の安心材料となりやすい傾向があります。

会社として、アスベストのリスク管理をただ法的義務への対応として行うことだけでなく、企業価値を高める戦略の一環ととらえ、長期的な視点で取り組むことが重要です。