ノンアスベストとは?意味とアスベストとの違い
アスベストとノンアスベスト建材の定義
アスベストとは、天然に産出される繊維状鉱物で、耐熱性・耐薬品性・断熱性に優れているため、かつては多くの建材や工業製品に使用されていました。しかし、その繊維を吸入することで肺がんや中皮腫といった深刻な健康被害を引き起こすことが判明しました。現在では日本国内において製造・使用ともに全面的に禁止されています。
一方、ノンアスベストとは、アスベスト(石綿)を一切含まない建材や製品のことを指します。ノンアスベスト建材は、アスベストの代替品として、安全性に配慮して開発された材料です。たとえば、パルプ(植物性繊維)、ガラス繊維、合成繊維、スチールウールなどが代替素材として使用されており、外観は似ていても内部構造は大きく異なっているのです。
ノンアスベストであるかどうかの判定は、使用された材料の成分や製造履歴、製品データベースなどの記録に基づいて確認されます。建材においては、製品型番やメーカー資料によってアスベストの含有有無が明示されている場合が非常に多く、正確な情報収集が重要です。
「アスベスト使用の可能性あり」とされる建材の特徴とは
建物の解体や改修工事を計画する際には、その建材がアスベストを含んでいる可能性があるかどうかを見極める必要があります。アスベストの使用が多かったのは、主に1970年代〜1990年代前半にかけての時期です。この時期に製造された建材には、高確率でアスベストが含まれている可能性があるため注意が必要です。
具体的には以下のような建材が、アスベスト含有の可能性が高いとされています。
・ 吹付け材(天井や梁の表面に使用される)
・ スレート板(屋根・外壁に多用)
・ ケイ酸カルシウム板(内装・間仕切りに使用)
・ 吸音板や軒天材(音響性や耐火性が求められる箇所に多い)
これらの建材は、耐火性・断熱性・防音性などに優れるため、多くの公共施設や民間建築物に使われてきました。そのため、築年数が古い建物ほど、アスベスト使用の可能性が高まると考えられます。
しかし、建材の見た目だけではアスベストの有無を正確に判断することは困難です。似たような外観であっても、ある製造ロットまではアスベストを含み、それ以降はノンアスベストに切り替わっているといった例もあります。そのため、「可能性があるかも」と思った段階で、正確な確認作業を行うことが重要になります。
ノンアスベストなら事前調査は不要?|法制度と判断基準を確認
2023年の法改正で義務化された「事前調査」の概要
2023年10月に施行された改正法により、すべての建築物の解体・改修工事において、アスベスト事前調査の実施が義務化されました。それによって、個人住宅や小規模工事であっても、調査が必ず必要となっています。
この改正の背景には、見落とされたアスベストが工事中に飛散し、作業員や近隣住民への健康被害を引き起こすリスクが指摘されてきたことがあります。そこで、事前に専門家によってアスベストの有無を調査し、その結果を労働基準監督署や発注者に報告することが規模や内容によっては義務付けられたのです。
さらに、調査結果を記録・保管し、一定期間保存する義務も生じます。これは施工業者だけでなく、元請企業や施設管理者にも大きな責任が伴うため、「石綿含有無し」と判断する際も、確実な証拠に基づく裏付けが求められます。
ノンアスベストと確認できた場合の調査省略要件とは
実は建材が確実にノンアスベストであると確認できる場合に限り、アスベスト含有分析を省略できるケースが存在します。これは厚生労働省のガイドラインや自治体の運用にも明記されており、「石綿含有無し」と判断できる具体的な条件が定められています。
代表的な要件は以下の通りです。
・ 対象建材の製造時期・型番・ロット番号が明確であり、かつメーカー資料などでアスベスト不含有と証明されている
・ 建材の納品書やカタログ、MSDS(製品安全データシート)などがあり、該当品がノンアスベスト製品と記載されている
・ 国が公開している「アスベスト含有建材データベース」において、該当品がノンアスベストと明記されている
これらの条件をすべて満たすことで、実際の試料採取・分析を省略することができます。ただし、「記録が一部欠けている」「資料の信頼性が低い」「改修歴があり建材が交換されている可能性がある」といった場合には、たとえノンアスベスト製品であると想定されても、分析調査の実施が推奨されるケースもあります。
製造年・製品型番・カタログなどの確認方法
ノンアスベストであることを証明するうえで、製造年や製品型番の確認は非常に重要です。なぜならアスベストの使用が法律で段階的に規制されてきた経緯があるため、製造時期によって含有の可能性が大きく異なるためです。
例えば、以下のようなポイントが確認作業の基本となります。
・ 建築当時の設計図書や仕様書を確認し、使用された建材の型番やメーカーを特定
・ 製品メーカーの公式カタログや製品仕様書を入手し、対象建材がアスベストを含まない旨の記載を確認
・ 国土交通省や厚生労働省が提供する「石綿含有建材データベース」にて型番を検索し、該当するかをチェック
・ 工事業者や材料納入業者に連絡し、当時の納品記録や仕入れ履歴を取り寄せる
ただし、これらの記録が残っていない建物も少なくありません。特に築年数が30年以上経過した建物では、資料の散逸や建材変更の記録漏れが発生しやすいため、情報の裏付けが取れない場合には、現地調査や分析調査の実施が安全策となります。
ノンアスベストと判断される代表的なケース
書面確認によって分析調査が不要になる状況とは
アスベスト含有分析調査が法的に不要となるのは、対象の建材が明確にノンアスベストであることを、信頼性のある書面で証明できる場合に限られます。これは、厚生労働省の「石綿障害予防規則」および関連通知に基づく解釈であり、分析調査義務の免除が認められる明確な条件です。
以下は、書面確認により調査を省略できる主なパターンです。
・ 建材メーカーの公式資料や製品仕様書に「アスベスト不使用」と明記されている場合
・ 国が運営する「石綿含有建材データベース」で対象製品がノンアスベストと登録されている場合
・ 過去に同一型番の建材について分析調査を実施し、「不検出」であった記録が残っている場合
・ 納品書や施工記録により、アスベストの全面禁止以降(2006年以降)に施工された建材であることが明らかな場合
これらの条件に合致することで、実際の試料採取や分析機関によるアスベスト含有分析を省略することができます。ただし、「書類の一部が欠けている」「対象建材のロットが不明」など、情報に不備がある場合は、分析調査不要とは判断されません。分析調査の省略には、あくまでも「客観的で信頼性の高い証拠」が求められるという点に注意が必要です。
納品書・製品データベースなどの活用方法
ノンアスベストの判定にあたっては、複数の情報源を組み合わせることが推奨されます。とくに、解体・改修を計画している建物に対して、納品書や製品データベースを活用することは非常に効果的です。
以下に代表的な確認手順を整理します。
1. 納品書・請求書の確認
対象建材の型番、製造年月、仕入先が記載されているかチェックします。2006年以降に納入されたものであれば、ノンアスベストである可能性が高まります。
2.メーカーへの直接問い合わせ
記載された型番が現在も取り扱われている場合、製造記録や素材構成に関する情報を得ることができます。一部のメーカーは過去製品のデータシートをWeb上で公開しています。
3.国のデータベースを活用
厚生労働省や建材評価機関が提供する「石綿含有建材データベース」で、型番を検索して該当製品がノンアスベストかを確認します。同一製品であっても製造年によって成分が異なる場合があるため、型番と製造時期のセットで照合することが重要です。
このような多角的な事前調査を通じて、アスベスト非含有が明確に確認できた場合に限り、分析調査義務は免除されます。
判断が難しい場合に陥りがちなミスとその対策
現場の実務において、アスベスト調査が「不要」と誤って判断されることには大きなリスクが伴います。特に、以下のような“よくある誤解”が原因で、調査を怠り行政指導や損害賠償問題に発展するケースがあります。
主な誤認例:
・ 「2006年以降に建てられた建物だから大丈夫」と安易に判断
・ 「前回の工事で問題なかったから今回も不要」と決めつける
・ 「見た目がスレートっぽいからアスベストはない」と外観だけで判断
・ 「協力業者が大丈夫と言っていた」と他者の証言に依存
これらのケースでは、書類や根拠が不十分であったことが後になって判明し、調査のやり直しや追加費用、損害賠償、信頼失墜につながる可能性があります。
ノンアスベスト建材でも分析調査が必要になるケースに注意
記録が不十分・建材変更履歴がある場合のリスク
ノンアスベスト建材であっても、記録が不十分な場合や建材の変更履歴がある場合には、分析調査の実施が必要です。
たとえば、設計図や納品書、カタログなどでノンアスベストと確認されていたとしても、実際の現場で使用されている建材が後から交換・改修されている可能性があると、記録との不一致が生じるからです。
特に、以下のような状況ではリスクが高まります。
・ 改修履歴が不明で、異なるロットや型番の製品が混在している可能性がある
・ 複数業者によって施工が重ねられた履歴があり、建材の整合性が取れていない
・ 資料上はノンアスベストであっても、現場で余剰在庫や旧製品が使用された可能性がある
このような場合には、「ノンアスベストである可能性が高い」と思われる建材であっても、目視調査や分析調査を実施することで、リスクを未然に防ぐことが重要です。
特に法人が元請となる公共工事や大規模工事では、アスベスト飛散の責任を問われる事態になれば企業としての信用失墜や行政処分のリスクも生じるため、「リスクの芽を摘む」視点が必要不可欠です。
「みなし判定」や目視調査に頼ることの限界
アスベスト調査において、書面による確認が不十分な場合、「みなし判定」や「目視調査」のみでノンアスベストと判断されることがあります。しかし、こうした方法には明確な限界が存在することを理解しておく必要があります。
「みなし判定」とは、以下のような間接的な情報から判断を行う手法です。
・ 使用された建材の色・質感・形状から、過去の経験と照らし合わせて判断
・ 周辺建材との一貫性をもとに「同一製品」とみなす
・ 建築年次や工法から、「この年代なら使用されていないはず」と判断する
これらはあくまで経験的判断であり、法的な裏付けや客観的証拠とはなりません。また、目視調査についても、建材表面から内部の成分を判断することは不可能であるため、いかに熟練者であっても誤判定のリスクは排除できません。
現場におけるスケジュールやコストの都合で、つい簡便な方法に頼りたくなる気持ちは理解できますが、最終的に調査ミスによって安全性が損なわれたり、法令違反が発覚したりするほうが損失は大きくなります。したがって、「不明な点がある限り、分析調査を実施する」という姿勢が、最も安全で合理的な選択となるのです。
元請業者としての説明責任と罰則リスクの回避法
ノンアスベスト建材と判断したものの、実際にはアスベストが含まれていた。このようなケースが発覚した場合、最終的な責任は元請業者や発注者が問われる可能性があります。
これは、「石綿障害予防規則」「労働安全衛生法」「大気汚染防止法」など複数の法令において、調査・報告・掲示義務が明記されているためです。リスクを回避するためには、「石綿含有無し」と判断するプロセス自体を文書化し、根拠を明確に残すことが極めて重要です。
たとえば以下のような対応が効果的です。
・ 「ノンアスベスト」と判断した理由と使用資料を調査報告書に明記
・ 複数の情報源を用いて判断し、第三者(専門家)による意見も添付
・ 万が一に備えて、最低限の分析調査を実施し、安全性を担保
元請としての立場では、「知らなかった」では済まされない時代になっています。リスクマネジメントの一環として、調査の実施や外部専門家との連携を標準化することが、長期的には最もコストパフォーマンスの良い選択となるでしょう。
判断に迷った場合は専門調査会社に相談を
アスベスト専門業者が提供する調査支援の内容
ノンアスベスト建材であるかどうかの判断が難しい場合や、根拠資料に不備がある場合は、アスベスト調査に特化した専門業者に相談することが推奨されます。
専門業者は、建材の特性や法制度に精通しており、法的に有効な手続きに則って調査を実施し、信頼性の高い判断を支援してくれます。
主な提供サービスには、以下のような内容が含まれます。
・ 書面調査(文献・納品書・仕様書などの分析)
対象建材の型番や製造情報をもとに、ノンアスベストであるかの判断材料を整理します。メーカーや流通業者への問い合わせ代行なども行われることがあります。
・ 現地目視調査
現場に赴き、使用建材の種類や施工状況、部位などをチェック。表面の劣化や周囲の建材との整合性なども確認します。
・ 分析調査(試料採取・分析機関での測定)
建材をサンプリングし、JIS規格に基づく分析を実施します。定性・定量分析を行い、アスベストの含有有無を科学的に確認できます。
・ 報告書作成と行政報告の支援
調査結果を法令に準拠した書式で報告書にまとめ、労働基準監督署や発注元への提出に対応できるよう支援します。
専門業者を利用することで、「ノンアスベストで調査不要」とする判断の妥当性を第三者が保証するかたちになり、後のトラブルを未然に防ぐことができます。特に大規模工事や公共施設においては、こうした客観的証拠の有無が元請企業の信頼に直結します。
ノンアスベスト確認書の取得サポートも可能
最近では、「ノンアスベスト確認書(または非含有証明書)」を求める自治体・発注元が増加しています。これは、書類上でノンアスベスト建材であることを確認し、分析調査を省略する正当な根拠として使用できる公的な資料です。専門業者に依頼することで、このような確認書をスムーズに取得することが可能です。具体的には、以下のようなサポートを受けられます。
・ 製造元への確認手続き代行(製品型番の証明、カタログ提出)
・ 調査結果をもとにした証明書の発行(非含有と判断された分析結果に基づく)
・ 建材ごとの証明書の整理と一覧化(現場ごと、部位ごとに明確化)
・ 自治体提出用フォーマットへの落とし込み支援
この確認書があれば、発注者や元請からの信頼性を担保できるほか、将来的に再工事や行政からの問い合わせがあった際にもスムーズに対応できます。
また、自主的に証明書を保管しておくことは、企業のコンプライアンス姿勢の一環としても評価されやすい側面があります。
ノンアスベストでも油断は禁物|分析調査不要の正しい判断と、安全管理の徹底を
アスベストのリスクが今なお残る現場において、「ノンアスベスト建材であるから分析調査は不要」という判断は、慎重のうえにも慎重を期すべきテーマです。近年の法改正によって、事前調査の義務が一層強化された今、正しい知識と適切な対応が求められています。
分析調査が不要となる条件は存在しますが、それには確かな記録や建築物石綿含有建材調査者の確認が必要です。情報があいまいなまま判断すれば、後々の法的責任や損害が発生しかねません。有資格者でない場合は、専門調査会社に相談することが必要であり、結果的にコスト削減・トラブル回避につながる近道となるでしょう。