アスベストレベル3の建材撤去を検討されている方にとって、その作業手順は非常に重要な関心事です。適切な手順を踏まなければ、アスベスト粉じんの飛散による健康被害や、法的規制への違反といったリスクが生じる可能性があります。この記事では、アスベストレベル3の基本的な知識から、安全かつ確実に作業を進めるための具体的な手順、そして関連する法規制までを詳細に解説します。読者の皆様が安心してアスベストレベル3建材の取り扱いを進められるよう、実践的かつ信頼性の高い情報を提供します。
アスベストレベル3とは?特徴と健康リスクを理解する
アスベスト(石綿)は、その飛散性や健康リスクの度合いによってレベル1からレベル3までの3段階に分類されます。この分類は、作業の危険性を評価し、適切な除去対策を講じるための重要な基準となります[1]。レベル3は、比較的飛散しにくい建材に該当しますが、取り扱いを誤ると健康リスクが生じるため、正しい知識と手順が不可欠です。
アスベストのレベル区分とレベル3の定義
アスベスト含有建材は、以下の3つのレベルに分類されます。
・ レベル1(最も危険な分類):吹き付けアスベストなど、アスベストの含有率が高く、繊維が非常に飛散しやすい建材が該当します。除去作業には厳格な密閉空間の設置や負圧除じん装置の使用が義務付けられています[1]。
・ レベル2(飛散リスクが高い建材):保温材、断熱材、耐火被覆材などがこれに該当します。これらはレベル1ほどではないものの、削ったり壊したりすることで粉じんが発生しやすいため、慎重な取り扱いが求められます[1]。
・ レベル3(比較的飛散しにくい建材):成形されたアスベスト含有建材が該当します。具体的には、スレート板、波型スレート、ケイカル板、ビニル床タイルなどが挙げられます[1]。これらの建材はアスベストが強固に結合しているため、通常の状態では繊維が飛散しにくいとされています。しかし、切断、破砕、研磨といった加工を行うと粉じんが発生する可能性があるため、適切な作業手順と飛散防止対策が必須です。
アスベストレベル3の撤去作業では、粉じんの飛散を最小限に抑えるために、湿潤化(表面を水で湿らせる)、防じんマスク(P3フィルター推奨)、防護服の着用などが推奨されています。これらの対策を怠ると、作業者や周囲の人々に健康被害を及ぼすリスクが高まります[1]。
レベル3アスベストが及ぼす健康リスク
アスベストレベル3に分類される建材は、通常の状態ではアスベスト繊維が飛散しにくいため、直ちに健康被害を引き起こす可能性は低いとされています。しかし、切断、破砕、研磨などの作業によって微細なアスベスト粉じんが発生し、これを吸入するリスクが高まります[1]。
・ 長期的な健康リスク:アスベスト繊維を吸入すると、数十年という長い潜伏期間を経て、以下のような重篤な健康被害を引き起こす可能性があります[1][2]。

出典:環境再生保全機構(2006年施行)「アスベスト(石綿)健康被害救済業務」

出典:SHEilds Health and Safety Blog(年不明)「Key Differences Between Mesothelioma and Lung Cancer」
・ 短期的な影響と作業時の注意点:短時間の作業であっても、大量のアスベスト粉じんを吸い込むと、のどの痛み、咳、息苦しさなどの症状が現れることがあります。特に適切な防護対策をせずに作業を行うと、自覚がないまま大量の粉じんを吸い込んでしまう危険性があるため、細心の注意が必要です[1]。
アスベストレベル3撤去のための事前準備
アスベストレベル3の撤去作業を安全かつ確実に行うには、適切な道具と装備、そして徹底した安全対策と飛散防止策が不可欠です。
撤去作業に必要な道具と装備
アスベストレベル3の撤去作業では、粉じんの飛散を防ぎ、作業者の安全を確保するために、以下の道具と装備が不可欠です[1]。
① 防護装備(作業者の安全対策)
・ 防じんマスク(P3フィルター推奨):アスベスト粉じんの吸入を確実に防ぐために、高性能なP3フィルター付きの防じんマスクを着用します。
・ 防護服(使い捨て不織布製):アスベスト繊維が衣服に付着するのを防ぎ、作業後の汚染拡大を防止するために、使い捨ての不織布製防護服を着用します。
・ 手袋・靴カバー:手や靴へのアスベスト付着を防ぎ、作業後の汚染拡大を防止します。
② 飛散防止・撤去用の道具
・ 噴霧器(水撒き用):作業前後に建材を湿潤化し、粉じんの飛散を抑制するために使用します。作業中も適宜、湿潤化を継続します。
・ 養生シート・テープ:作業エリアを完全に覆い、アスベスト粉じんが周囲に拡散するのを防ぐために使用します。厚手のビニールシートと粘着力の高い養生テープで隙間なく密閉します。
・ HEPAフィルター付き掃除機:アスベスト粉じんを確実に除去できる、HEPAフィルター(高性能粒子状空気フィルター)付きの専用掃除機を使用します。通常の掃除機ではアスベスト粉じんがフィルターを通過し、かえって飛散させる可能性があるため、絶対に使用してはいけません。
③ 廃棄処理用具
・ 厚手のビニール袋(2重密封):撤去したアスベスト含有建材を安全に密封し、廃棄するために使用します。二重にすることで、破損による飛散リスクを低減します。
・ 「アスベスト含有」表示ラベル:誤って一般廃棄物として処理されることを防ぐため、アスベスト含有廃棄物であることを明示するラベルを貼付します。
事前の安全対策と飛散防止策
アスベストレベル3の撤去作業における事前の安全対策と飛散防止策は、作業者の健康保護と周辺環境への配慮の観点から極めて重要です。これらの対策を徹底することで、健康リスクや法的トラブルを未然に防ぐことができます[1]。
① 事前の安全対策
・ 作業計画の策定:撤去対象のアスベスト含有建材の種類、量、設置状況を詳細に確認し、安全な作業手順を具体的に定めます。作業エリアを明確に特定し、粉じんの飛散経路や対策を事前に検討します。
・ 防護装備の準備と着用:作業者は、前述の防じんマスク(P3フィルター推奨)、防護服、手袋、靴カバーを正しく着用し、アスベスト粉じんの吸入や衣服への付着を確実に防ぎます。 ・ 作業エリアの管理:作業エリアを明確に区画し、「立入禁止」の表示を設置します。無関係の人が誤って侵入しないよう、バリケードやロープなどで物理的に隔離する措置も有効です。
② 飛散防止策
・ 養生と密閉作業:作業エリア全体を厚手のビニールシートで覆い、養生テープで隙間なく密閉します。窓や換気口も同様に塞ぎ、アスベスト粉じんが外部に漏れ出すのを防ぎます。
・ 湿潤化処理の徹底:撤去作業の開始前、作業中、そして作業後にも、噴霧器で水を散布し、建材を十分に湿らせます。これにより、アスベスト粉じんの飛散を大幅に抑制できます。特に乾燥した状態での作業は避けるべきです。
・ 適切な撤去方法の選択:建材の破砕や切断は、アスベスト粉じんの飛散リスクを著しく高めるため、極力避けるべきです。可能な限り、建材を原形を保ったまま慎重に取り外す方法を選択します。衝撃や振動を与えないよう、細心の注意を払って作業を進めます。
アスベストレベル3の安全な撤去方法【手順解説】
アスベストレベル3の撤去は、事前準備、慎重な撤去、適切な後処理の3ステップで構成され、これらの徹底が安全確保とリスク低減につながります[1]。
作業の流れ(準備・撤去・後処理)
アスベストレベル3の撤去作業は、以下の具体的な流れで実施されます。
① 準備(作業前の安全対策)
・ 防護装備の着用:作業者は、防じんマスク(P3フィルター推奨)、防護服、手袋、靴カバーを装着し、アスベスト粉じんの吸入および衣服への付着を完全に防ぎます。
・ 作業エリアの養生:作業場所全体をビニールシートで覆い、養生テープで隙間なく密閉します。窓や換気口も封鎖し、粉じんが外部に漏れるのを防ぎます。
・ 湿潤化処理(粉じん飛散防止):噴霧器などを用いて建材を十分に湿らせ、乾燥状態での作業を避けます。作業開始前に水を含ませることで、粉じんの発生を抑制します。
② 撤去(安全に建材を取り外す)
・ 破損を避け、慎重に撤去:建材に衝撃や振動を与えないよう、できるだけ原形のまま慎重に取り外します。切断や破砕は粉じんの飛散リスクを高めるため、最小限にとどめます。
・ 湿潤化の継続:作業中も定期的に水を散布し、建材が乾燥しないようにします。これにより、粉じんの飛散を継続的に抑制します。
・ 撤去した建材の密封:取り外した建材は、厚手のビニール袋に二重に入れ、完全に密封します。「アスベスト含有」と明示し、飛散防止対策を徹底します。
③ 後処理(清掃と廃棄処理)
・ 作業エリアの清掃:HEPAフィルター付きの専用掃除機を使用し、作業エリア内のアスベスト粉じんを徹底的に除去します。通常の掃除機は使用してはいけません。
・ 防護服・手袋の処分:使用済みの防護服や手袋は、適切に密封し、アスベスト廃棄物として処理します。作業後は、エアブロー(圧縮空気で粉じんを吹き飛ばす行為)はせず、シャワーで身体に付着した粉じんを完全に洗い流します。
・ 廃棄物の適正処理:認可を受けたアスベスト廃棄物処理業者に廃棄を委託し、自治体のルールに従って処分します。マニフェスト制度に対応している業者を選ぶことで、処理の透明性と適正性を確保できます。
撤去時の注意点と違反を防ぐポイント
アスベストレベル3の撤去作業では、予期せぬトラブルや法規制違反を防ぐため、注意点の理解と適切な管理体制の構築が重要です[1]。
① 予期せぬトラブルを防ぐための注意点
・ 周囲への影響を考慮:近隣住民や施設利用者に対し、事前に作業内容、期間、安全対策について丁寧に説明し、騒音や粉じんに対する不安を解消するよう努めます。理解と協力を得ることで、トラブルを未然に防ぐことができます。
・ 適切な作業環境の確保:風が強い日や乾燥した環境では、アスベスト粉じんが飛散しやすくなります。作業日の天候を事前に確認し、粉じん飛散のリスクが低い日に作業を実施することが望ましいです。
・ 作業後の空気環境をチェック:撤去作業が完了した後、作業空間にアスベスト粉じんが残存していないか、空気モニタリングを実施して安全性を確認します。これにより、二次的な健康被害のリスクを排除します。
② 違反を防ぐための管理体制の強化
・ 作業記録の作成と保管:撤去作業の全工程(作業日時、使用機材、作業方法、廃棄物の処理方法など)を詳細に記録し、適切に保管します。これは、行政による調査や万が一のトラブル発生時に、作業の適正性を証明するための重要な資料となります。
・ 作業員の教育を徹底:作業開始前には必ず安全ミーティングを実施し、アスベストに関する知識、飛散防止策、具体的な撤去手順、緊急時の対応などについて、作業員全員が理解していることを確認します。定期的な教育訓練も重要です。
・ 信頼できる業者に処分を依頼:アスベスト廃棄物の処理は、専門的な知識と設備が必要です。「産業廃棄物収集運搬業」および「処分業」の許可を持つ業者を選定し、マニフェスト制度に対応しているかを確認します。無許可業者への委託は、法規制違反となるだけでなく、不適切な処理による環境汚染や健康被害のリスクを高めます。
撤去後の処理と適切な廃棄方法
アスベスト含有建材の撤去後、最も重要な工程の一つが、その適切な処理と廃棄です。誤った方法で廃棄すると、アスベスト粉じんの飛散による健康被害を引き起こすだけでなく、廃棄物処理法をはじめとする様々な法的規制に違反する可能性があります。ここでは、アスベスト廃棄に関するルールと法規制、そして信頼できる処分業者の選び方について詳しく解説します[1]。
アスベスト廃棄のルールと法的規制
アスベスト含有廃棄物は、その種類によって「特別管理産業廃棄物」または「産業廃棄物」に分類され、厳格なルールに基づいて処理されなければなりません[1]。
① 廃棄物の分類と適正処理
・ 特別管理産業廃棄物:吹き付けアスベスト(レベル1)やアスベスト含有の粉じんなど、飛散性が高く特に危険なアスベスト廃棄物が該当します。これらは、より厳格な処理基準が適用されます。
・ 産業廃棄物:アスベストレベル3に該当する成形建材(スレート板やケイカル板など)は、原則として「産業廃棄物」に分類されます。しかし、飛散リスクがあるため、通常の産業廃棄物とは異なる特別な管理が必要です。
アスベスト含有廃棄物は、一般のごみ収集では回収されません。自治体が指定する処分場、または特定の管理型最終処分場で適正に処理される必要があり、専門業者への回収・処理委託が必須となります[1]。
② 廃棄物の密閉と管理 撤去したアスベスト含有建材は、飛散を防ぐために以下の方法で密閉・保管する必要があります[1]。
・ 廃棄物を厚手のビニール袋に二重に入れ、完全に密封します。袋が破れることのないよう、十分な強度を持つものを選びます。
・ 「アスベスト含有廃棄物」であることを明示するラベルを貼付し、誤って他の廃棄物と混ざらないように管理します。
・ 保管場所は、風でアスベストが飛散しないように管理し、定められた期限内に処分します。
③ アスベスト廃棄に関する法的規制
アスベスト廃棄には、主に以下の法律が適用されます[1]。
・ 廃棄物の処理及び清掃に関する法律(廃棄物処理法):アスベスト含有廃棄物は、自治体に認可された専門業者に委託し、適切な処理施設で処分することが義務付けられています。無許可の処理業者に依頼することは違法です。
・ 石綿障害予防規則:アスベストを取り扱う作業に関する安全管理を定めた規則で、撤去後の清掃や廃棄処理にも適用されます。作業者は適切な保護具を着用し、廃棄作業時の粉じん飛散防止措置を講じることが求められます。
・ 大気汚染防止法:アスベストの飛散防止を目的とした法律です。特定の工事では、有資格者による事前調査や事前の届出が義務付けられています。適切な方法で除去せず、飛散防止措置を怠った場合、罰則の対象となります。
適切な処分業者の選び方
アスベストレベル3の廃棄物を安全かつ法的に適切に処理するためには、信頼できる処分業者を選ぶことが極めて重要です。以下のポイントを確認し、適正な業者を見極めましょう[1]。
① 許可の有無を確認
・ 「産業廃棄物収集運搬業」および「処分業」の許可を都道府県知事または政令指定都市の長から受けている業者であることを確認します。自治体の公式ウェブサイトなどで許可業者リストが公開されている場合があります。
② マニフェスト制度への対応
・ 廃棄物の処理が適正に行われたことを証明する「マニフェスト制度(産業廃棄物管理票制度)」に対応している業者を選びます。処理完了後に、マニフェストの控えが発行されることを確認しましょう。
③ 適切な処理設備と方法
・ アスベスト廃棄物を管理型最終処分場で適正に処理できる設備と方法を有しているかを確認します。業者がどのような処理方法を用いるのか、具体的に説明を求め、不明な点がないようにします。
④ 料金体系の透明性
・ 相場と比較して極端に安価な見積もりを提示する業者には注意が必要です。見積もりの内訳を詳細に確認し、追加費用が発生する可能性がないか事前に確認しましょう。不透明な料金体系の業者は避けるべきです。
⑤ 過去の実績と評判
・ 業者の過去の実績や評判を、インターネット上の口コミや自治体の公表情報などで確認します。トラブル歴がないか、長年の実績があるかなども判断材料となります。
まとめ
アスベストレベル3の撤去作業は、適切な知識と手順、そして徹底した安全対策が不可欠です。この記事では、アスベストレベル3の定義から、作業に必要な準備、具体的な撤去手順、そして撤去後の適切な処理方法と法規制について解説しました。
作業前には、防じんマスクや防護服などの適切な防護装備を着用し、作業エリアをビニールシートで養生して密閉することが重要です。また、建材の湿潤化を徹底し、破砕や切断を避け、できるだけ原形のまま慎重に取り外すことで、アスベスト粉じんの飛散リスクを最小限に抑えることができます。撤去後は、HEPAフィルター付きの専用掃除機で清掃し、アスベスト含有廃棄物は二重に密封した上で、許可を受けた専門業者に委託し、法規制に従って適正に処分することが求められます。
アスベストの取り扱いは、作業者自身の健康だけでなく、周囲の環境や人々の健康にも影響を及ぼす可能性があるため、常に安全第一で臨む必要があります。正しい知識と適切な手順を実践することで、アスベストレベル3の撤去作業を安全かつ確実に完了させることができます。不安な点があれば、専門家や自治体に相談し、適切な指導を受けることも重要です。
参考文献
・ [1] 厚生労働省. 石綿含有建材のレベル分類. https://www.mhlw.go.jp/content/11201000/000422874.pdf
・ [2] 環境省. 石綿(アスベスト)って何? 石綿による健康被害って何? https://www.env.go.jp/air/asbestos/index4.html