建築物の改修や解体、外壁塗装を検討する際、特に古い建物においては、使用されている塗料にアスベスト(石綿)が含まれている可能性が懸念されます。アスベストは、その健康被害が明らかになって以来、使用が厳しく制限されてきましたが、過去に製造・使用された建材には依然として残存しているケースが少なくありません。本記事では、「塗料 アスベスト 年代」という検索キーワードで情報を求める方々に向けて、仕上塗材や下地調整材におけるアスベスト含有の年代、種類、見分け方、そして法規制に基づく調査義務と適切な対応策について、詳細かつ網羅的に解説します。

塗料(仕上塗材)にアスベストが含まれている年代と種類

かつて、建築物の外装や内装に用いられる仕上塗材には、塗膜のひび割れ防止や施工性の向上を目的として、アスベストが添加されていました。これらのアスベスト含有仕上塗材は、特定の年代に集中して製造・販売されており、その種類も多岐にわたります。

仕上塗材のアスベスト含有は1970年から1999年までが中心

日本建築仕上材工業会(NSK)のアンケート調査結果によると、アスベスト含有仕上塗材の販売期間は、主に1970年代から1990年代後半に集中しています。

具体的には、1970年から1999年の間に多くの製品が市場に出回っていました。アスベストの製造・使用が全面的に禁止されたのは2006年ですが、それ以前に施工された建物には、これらの塗材が使用されている可能性があります。

注意が必要な仕上塗材の主な種類(リシン、吹付けタイル、スタッコ等)

アスベストが含有されていた仕上塗材には、以下のような種類があります。

・ 薄塗材C(セメントリシン):1981年〜1988年頃に販売され、アスベスト含有量は約0.4%とされています。
・ 薄塗材E(樹脂リシン):1979年〜1987年頃に販売され、アスベスト含有量は0.1%〜0.9%の範囲でした。
・ 複層塗材C(セメント系吹付けタイル):1970年〜1985年頃に販売され、アスベスト含有量は約0.2%です。
・ 複層塗材E(アクリル系吹付けタイル):1970年〜1999年頃に販売され、アスベスト含有量は0.1%〜5.0%と幅があります。
・ 厚塗材C(セメントスタッコ):1975年〜1999年頃に販売され、アスベスト含有量は0.1%〜3.2%です。
・ 厚塗材E(樹脂スタッコ):1975年〜1988年頃に販売され、アスベスト含有量は0.1%〜0.4%です。

これらの塗材は、外壁や内壁に独特の模様や質感を与えるために広く用いられていました。特に、クリソタイル(白石綿)が主に使用され、ごく一部の製品にはアモサイト(茶石綿)も使われていましたが、最も発がん性が高いとされるクロシドライト(青石綿)の使用実績はありません。

特に飛散性が高い「軽量塗材」はレベル1扱いに注意

仕上塗材の中でも、特に注意が必要なのが「軽量塗材」と呼ばれるものです。これは「吹付けパーライト」や「吹付けバーミキュライト」とも称され、屋内の天井などに施工されました。販売期間は1965年から1992年と比較的長く、アスベスト含有量は0.4%から24.4%と高濃度である製品も存在しました。

これらの軽量塗材は、その飛散性の高さから、アスベスト含有建材のレベル分類において、最も危険度が高いとされるレベル1に分類されています。これは、吹付けアスベストと同様の扱いであり、除去作業時には厳重な飛散防止措置が義務付けられています。

2020年の大気汚染防止法改正により、一般的なアスベスト含有仕上塗材がレベル3に分類変更された後も、軽量塗材は引き続きレベル1の作業基準が適用されるため、その取り扱いには最大限の注意が必要です。

下地調整材のアスベスト含有年代は2005年まで続く

仕上塗材の下地に塗られる「下地調整材」にも、過去にアスベストが使用されていました。仕上塗材と同様にセメントなどの結合材で固められているため、通常環境下でのアスベスト飛散リスクは低いとされていますが、除去作業時には注意が必要です。

仕上塗材よりも長く販売されていた下地調整材のリスク

下地調整材におけるアスベスト含有製品の販売期間は、1970年から2005年までと、仕上塗材よりも長く続いていました。

このため、比較的新しい建築物であっても、下地調整材にアスベストが含まれている可能性を考慮する必要があります。アスベスト含有量は0.1%から6.2%の範囲で確認されています。

下地調整材(フィラー)の種類とアスベスト含有量

アスベストが使用された下地調整材には、主に以下の2種類があります。

・ 下地調整塗材C(セメント系フィラー):1970年〜2005年頃に販売され、アスベスト含有量は0.1%〜6.2%です。
・ 下地調整塗材E(樹脂系フィラー):1982年〜1987年頃に販売され、アスベスト含有量は約0.5%です。

これらの下地調整材は、コンクリートの不陸(凹凸)を平坦にする目的で用いられ、その後の仕上塗材の施工を容易にする役割を担っていました。

法規制上の扱いは「石綿含有成形板等」に準ずる

厚生労働省と環境省が統合した「建築物等の解体等に係る石綿ばく露防止及び石綿飛散漏えい防止対策徹底マニュアル」では、下地調整材は仕上塗材として区分されていますが、法令上は「石綿含有成形板等」の作業基準が適用されます。

石綿含有成形板等とは、セメントなどとともに成形されたアスベスト含有建材の総称で、屋根のスレート波板や外壁のスレートボード、内壁・天井のパーライト板などがこれに該当します。

下地調整材に含まれるアスベストは、セメントなどの結合材によって強固に固められているため、通常の状態ではアスベストが飛散する可能性は極めて低いと考えられています。しかし、解体や改修工事において切断や破砕といった作業が行われると、アスベストが飛散するリスクが高まります。そのため、石綿含有成形板等の除去作業に準じた飛散防止対策を講じることが不可欠です。

アスベスト調査に欠かせない「層別分析」の重要性

仕上塗材や下地調整材にアスベストが含まれているかを確認するためには、適切な調査と分析が不可欠です。特に、これらの塗材が多層構造になっている場合、その特性を考慮した分析方法が求められます。

仕上塗材の多層構造とアスベストの混入箇所

建築物の外壁や内壁に施された仕上塗材は、下地調整材の上に主材、さらに上塗材が重ねられるなど、複数の層で構成されていることが一般的です。アスベストが含有されているのは、主に仕上塗材の主材や下地調整材の層であるとされています。

この多層構造がアスベスト調査を複雑にする要因となります。例えば、一部の層にのみアスベストが比較的低濃度で含まれている場合、検体を採取する際に複数の層が混ざってしまうと、アスベストの検出が困難になることがあります。そのため、どの層にアスベストが含まれているのかを正確に特定することが、適切な除去計画を立てる上で極めて重要となります。

なぜ通常の分析ではなく「層別分析」が必要なのか

アスベストの有無を調べる分析方法には「定性分析」と「定量分析」がありますが、仕上塗材や下地調整材の多層構造に対応するためには、「層別分析」が特に有効です。層別分析とは、建材の各層を分離し、それぞれについてアスベストの有無や種類、含有率を分析する手法です。

通常の定性分析では、検体全体を均一に分析するため、アスベスト含有層と非含有層が混在している場合に、アスベストの存在を見落としたり、含有率を過小評価したりするリスクがあります。これに対し、層別分析では、アスベストが含まれる可能性のある層を個別に詳細に分析することで、より正確な情報が得られます。これにより、アスベスト含有建材の範囲を正確に特定し、無駄な除去作業を避けつつ、必要な対策を確実に実施することが可能になります。

JIS A 1481-1による分析のメリット

層別分析は、JIS A 1481-1に定められた分析方法に対応しています。この規格は、実体顕微鏡と偏光顕微鏡を用いてアスベストの形状、色、光学的性質などを観察し、アスベストの種類を特定するものです。

JIS A 1481-1に基づく分析は、アスベストの専門家が高度な技術と知識を駆使して行うため、信頼性の高い結果が得られます。

層別分析によって、アスベスト含有層が特定されれば、その層のみを対象とした除去計画を策定できます。これは、作業の効率化だけでなく、アスベスト飛散リスクの最小化、そしてコスト削減にも繋がります。したがって、仕上塗材や下地調整材のアスベスト調査においては、JIS A 1481-1に準拠した層別分析の実施が強く推奨されます。

アスベスト含有が判明した場合の除去工法と注意点

事前調査の結果、仕上塗材や下地調整材にアスベスト含有が判明した場合、適切な除去工法を選定し、法規制を遵守した上で作業を進める必要があります。アスベストの飛散を防止し、作業従事者や周辺住民の健康を守ることが最優先されます。

飛散防止のための湿潤化と適切な除去工法の選定

アスベスト含有仕上塗材や下地調整材の除去作業においては、アスベストの飛散を抑制するための措置が不可欠です。最も基本的な対策の一つが「湿潤化」です。これは、除去対象となる建材に薬剤や水を散布して湿らせることで、アスベスト繊維の飛散を抑える方法です。

除去工法は、塗材の種類や状態、アスベストの含有レベルに応じて適切に選定する必要があります。日本建築仕上材工業会と国立研究開発法人建築研究所の共同研究により作成された「建築物の改修・解体時における石綿含有建築用仕上塗材からの石綿粉じん飛散防止処理技術指針」では、既存塗膜の除去工法を「負圧隔離による工法」「隔離工法によらない工法」「石綿除去工事に該当しない工法」の三つに区分し、その選定方法が示されています。

・ 負圧隔離による工法:作業場所を完全に密閉し、内部を負圧に保つことで、アスベスト繊維の外部への漏洩を防ぐ最も厳重な工法です。主にレベル1建材の除去に適用されます。
・ 隔離工法によらない工法:作業場所を簡易的に隔離し、湿潤化などの飛散防止措置を講じながら除去を行う工法です。主にレベル3建材の除去に適用されます。
・ 石綿除去工事に該当しない工法:アスベストの飛散リスクが極めて低いと判断される場合に適用される工法で、例えば、塗膜を破断せずに除去できる場合などが該当します。

これらの工法の中から、アスベストの飛散リスクを最小限に抑えつつ、効率的に作業を進められる方法を選択することが重要です。

自治体の条例による規制の違いを確認する

アスベストに関する法規制は、国の法律(大気汚染防止法、石綿障害予防規則など)だけでなく、各自治体の条例によっても定められています。これらの条例は、国の法律よりも厳しい基準を設けている場合があるため、除去作業を行う前に、必ず当該自治体の環境部局や建築部局に確認し、必要な手続きや遵守すべき事項を把握しておく必要があります。

例えば、事前調査結果の報告義務の対象となる工事の規模や、届出の期限、作業中の掲示物の内容など、自治体によって細かな規定が異なることがあります。これらの情報を事前に確認することで、法規制違反のリスクを回避し、スムーズな作業進行に繋がります。

2022年4月から義務化された「事前調査結果の報告」

2022年4月1日からは、建築物や工作物の解体・改修工事を行う事業者に対し、アスベスト含有建材の事前調査結果を国または自治体に報告することが義務付けられました。

これは、アスベストによる健康被害を未然に防ぐための重要な措置であり、違反した場合には罰則が科せられる可能性があります。

報告の対象となる工事は、以下の通りです。

・ 解体工事:対象となる建築物の床面積の合計が80平方メートル以上のもの。
・ 改修工事:請負金額の合計が100万円以上のもの(消費税を含む)。
・ 特定の工作物の解体・改修工事:請負金額の合計が100万円以上のもの(消費税を含む)。

事前調査は、建築物石綿含有建材調査者などの専門資格を持つ者が行う必要があり、その結果は工事開始前に発注者への説明と、所管行政庁への報告が義務付けられています。この報告義務は、アスベスト含有建材の適切な管理と、作業従事者および周辺住民の安全確保に大きく貢献するものです。

まとめ

塗料に含まれるアスベストは、特に1970年代から2005年頃までに施工された仕上塗材や下地調整材に含有されている可能性があり、その年代を把握することは、アスベスト対策の第一歩となります。しかし、見た目だけでアスベストの有無を判断することは極めて困難であり、また、多層構造を持つ塗材においては、どの層にアスベストが含まれているかを正確に特定するために「層別分析」が不可欠です。

アスベスト含有が判明した場合には、飛散防止のための湿潤化や適切な除去工法の選定、そして国の法律や自治体の条例に基づく事前調査結果の報告義務など、厳格な法規制を遵守した対応が求められます。これらの作業は専門的な知識と技術を要するため、アスベスト調査・除去の専門業者に相談し、適切なアドバイスとサポートを受けることが最も確実で安全な方法です。安易な自己判断や不適切な作業は、健康被害や法規制違反に繋がるリスクがあるため、必ず専門家にご相談ください。

参考文献

[1] 日本建築仕上材工業会「アスベスト含有仕上塗材情報」(https://www.nsk-web.org/asbestos/ )

[2] 厚生労働省「石綿総合情報ポータルサイト」(https://www.ishiwata.mhlw.go.jp/ )

[3] 環境省「建築物等の解体等に係る石綿ばく露防止及び石綿飛散漏えい防止対策徹底マニュアル」(https://www.env.go.jp/air/asbestos/post_71.html )