令和4年(2022年)4月1日より、建築物や工作物の解体・改修工事におけるアスベスト(石綿)事前調査結果の報告が義務化されました。これは、大気汚染防止法および石綿障害予防規則の改正に伴う規制強化の一環であり、アスベストによる健康被害の防止を目的としています。本記事では、アスベスト報告義務の対象となる工事の具体例、報告が不要なケース、事前調査から報告までの詳細な流れについて、最新の法令に基づき解説します。
アスベスト報告義務化の背景と法改正のポイント
アスベストは、その優れた耐熱性や耐久性から、かつては多くの建材に利用されていました。しかし、飛散したアスベスト繊維を吸入することで、肺がんや悪性中皮腫などの重篤な健康被害を引き起こすことが明らかになり、その使用は段階的に禁止されてきました。今回の報告義務化は、既存建築物や工作物に残存するアスベストの飛散を未然に防ぎ、作業従事者や周辺住民の健康を守るための重要な措置です。
大気汚染防止法と石綿障害予防規則の改正
アスベストに関する規制は、主に大気汚染防止法と石綿障害予防規則によって定められています。大気汚染防止法は、大気汚染の原因となる物質の排出を規制し、国民の健康保護と生活環境の保全を図ることを目的としています。一方、石綿障害予防規則は、労働安全衛生法に基づき、石綿による労働者の健康障害を防止するために事業者が講ずべき措置を定めています。
令和3年(2021年)4月1日には大気汚染防止法が改正され、さらに令和4年(2022年)4月1日からはアスベスト調査結果の報告が義務付けられました。これらの法改正は、アスベスト対策をより一層強化し、国民の安全を確保するためのものです。
規制強化の5つのポイント
法改正における主なポイントは以下の5点です。
① 規制対象建材の拡大原則的にすべてのアスベスト含有成形板等(レベル3建材)まで規制対象が拡大されました。これにより、これまで規制対象外だった建材も事前調査の対象となります。
② 罰則の強化・立ち入り検査の対象拡大:適切な除去作業を行わない場合、下請負人も含む対象者に直接罰が適用されることになり、違反に対する厳格な姿勢が示されました。また、立ち入り検査の対象も拡大され、より広範な工事現場での監視が強化されています。
③ 事前調査の信頼性の確保:専門知識を有する者による事前調査が義務付けられました。これにより、調査の質が向上し、アスベストの見落としリスクが低減されることが期待されます。令和5年(2023年)10月からは、厚生労働省が指定するアスベスト調査の講習修了が必須となっています。
④ 事前調査の報告:解体・改修工事は原則すべて事前調査の報告が義務付けられました。これは、アスベスト含有建材の有無に関わらず、一定規模以上の工事では報告が必要となることを意味します。
⑤ 作業記録の作成保存:事前調査の報告や作業記録の保存が義務付けられました。これにより、工事の透明性が確保され、将来的なアスベスト関連情報の追跡が可能となります。

出典:一般社団法人日本アスベスト調査診断協会(2022)「3分でわかるアスベスト(石綿)法改正」https://8KdvI9CbVcgB.webp
報告義務の対象となる解体・改修工事の具体例
アスベスト事前調査は原則としてすべての解体・改修工事が対象となりますが、その調査結果の報告が義務付けられる工事には、特定の条件が設けられています 。報告義務の対象となる工事は、建築物と工作物でそれぞれ基準が異なります。
建築物の解体工事における報告義務の基準
建築物の解体工事において、アスベスト事前調査結果の報告が義務付けられるのは、以下の条件を満たす場合です。
・ 解体する場所の床面積が80平方メートル以上の工事
この基準は、ビルのような大規模建築物だけでなく、一般住宅も対象となります。例えば、1階と2階の床面積の合計が約82.5平方メートルの木造住宅や、複数の棟からなる家屋で棟の床面積合計が80平方メートル以上となる場合も報告義務の対象です。自主解体であっても同様に報告が必要です。倉庫の場合も、床面積が合計100平方メートルのものは報告対象となります。
建築物の改修・補修工事における報告義務の基準
建築物の改修・補修工事においては、以下の条件を満たす場合に報告義務が発生します。
・ 請負代金の合計額が税込みで100万円以上の建築物の改造・補修工事
※この請負代金には、材料費と工事費の合計額が含まれます。具体的な例を挙げます。
・ 給湯器の交換:給湯器本体が80万円、交換工事費が30万円で合計110万円となる場合、報告義務の対象です。請負代金が税抜きで95万円、税込みで100万円以上となるものも同様です。
・ 設備・改修・補修工事:給水・排水設備、屋根、壁、防水などの改修工事で請負代金が100万円以上となるものは報告が必要です。
・ リフォーム工事:エアコン交換、ガラスサッシ交換、照明設備交換など、既存建築物を加工する工程を含むリフォーム工事で請負代金が100万円以上となる場合も対象です。
・ 外壁塗装・屋根張替え・内装工事:外壁の既存塗装剥離、屋根の張替え、壁紙の張替えなど、既存建材を穿孔、破断、粉砕などの加工を伴う工事で請負代金が100万円以上となるものは報告義務の対象です。外壁の上塗り作業のみであっても、アンカーで足場を固定する際に穿孔作業が含まれるなど、既存建材を加工する過程がある場合は事前調査の対象となり、請負金額が100万円以上であれば報告義務が生じます。
・ その他:携帯電話基地局設置に伴う壁や天井への穴あけ作業など、請負金額が100万円以上となる場合も報告対象となります。
補修工事を分割して契約した場合でも、同一業者との契約で合計金額が100万円以上となる場合は報告義務の対象です。自主施工の場合でも、請負人への金額が100万円以上となる場合は調査結果の報告が必要です。
工作物の解体・改修工事における報告義務の基準
工作物とは、建築物以外の構造物で、土地、建築物または工作物に設置されているもの、または設置されていたものを指します。煙突、サイロ、鉄骨架構、上下水道管等の地下埋設物、化学プラント、建築物内に設置されたボイラー、非常用発電設備、エレベーター、エスカレーターなどが含まれます。
工作物の解体・改修工事において、アスベスト事前調査結果の報告が義務付けられるのは、以下の条件を満たす場合です。
・ 請負金額が税込みで100万円以上の一定の工作物の解体・改修工事
※ここでいう「一定の工作物」とは、環境大臣が定める特定工作物を指します。具体的には、反応槽、加熱炉、ボイラー及び圧力容器、配管設備(建築物に設ける建築設備を除く)、焼却設備、貯蔵設備(穀物を貯蔵するための設備を除く)、発電設備(太陽光発電設備及び風力発電設備を除く)、変電設備、配電設備、送電設備(ケーブルを含む)、煙突(建築物に設ける排煙設備等の建築設備を除く)、トンネルの天井板、プラットホームの上家、遮音壁、軽量盛土保護パネル、鉄道の駅の地下式構造部分の壁及び天井板、観光用エレベーターの昇降路の囲い(建築物であるものを除く)などが挙げられます。
工作物の具体例とアスベスト調査の必要性
工作物におけるアスベスト調査の具体例としては、以下のようなケースが報告義務の対象となり得ます。
・非常用ディーゼル発電機の補修工事(請負代金300万円)
・変電所の変電設備改修工事(請負代金300万円)
・焼却炉の自主解体工事(請負人施工で代金100万円以上)
・地表にあるガス管の補修工事(請負代金300万円)
工作物のアスベスト調査は、建築物とは異なる専門知識を要する場合があります。例えば、パッキン・ガスケット・シール材、接着剤、シーリング、パテなど、一見アスベストとは無関係に見える材料にも含有されている可能性があるため、詳細な調査が必要です。エレベーターの一部が工作物に該当するなど、特殊な判断が求められるケースもあります。
報告義務が不要なケースと事前調査の重要性
アスベスト事前調査結果の報告義務には、特定の条件がありますが、報告義務がない場合でも、アスベスト事前調査自体はすべての解体・改修工事で義務付けられています。この点を理解することは、法令遵守と安全確保のために非常に重要です。
報告義務が不要な工事の条件
以下の条件に該当する場合、アスベスト事前調査結果の報告義務は不要となります。
・ 建築物の解体工事で床面積が80平方メートル未満の場合:解体工事は基本的に面積のみで判断されるため、請負代金が100万円以上であっても、床面積が80平方メートル未満であれば報告義務はありません。
・ 建築物・工作物の改修・補修工事で請負代金が税込み100万円未満の場合:改修・補修工事は請負代金で判断されるため、これ以下の代金であれば報告義務は不要です。
・ 平成18年(2006年)9月1日以降に着工した建築物・工作物:この日以降はアスベスト含有資材の使用が禁止されているため、着工日が図面などで確認できる場合は、書面調査をもって事前調査結果報告書を作成し、報告を行うことが可能です。ただし、2008年2月5日に分析対象のアスベストが3種から6種に拡大されたため、それ以前の調査結果(特にアスベストなしの結果)については参考とし、再度調査が必要となる場合があります。
これらの条件に該当する場合でも、アスベスト含有の有無の判断が難しい場合は、自治体の専門窓口に相談することが推奨されます。
報告義務が不要でも事前調査は必須
都道府県や労働基準監督署への報告が不要な工事であっても、着工前にはアスベスト調査を実施することが義務付けられています。これは、アスベストによる健康被害のリスクは工事の規模や費用に関わらず存在するためです。調査結果は発注者への書面での報告、調査結果の掲示、そして事前調査結果の現場への備え付けが義務付けられています。
アスベスト事前調査は、工事の安全性を確保し、将来的な法的トラブルを避けるためにも、すべての解体・改修工事において適切に実施されるべき重要なプロセスです。
アスベスト事前調査から報告までの流れ
アスベスト事前調査から報告までのプロセスは、法令で定められた手順に従って進める必要があります。このプロセスを正確に理解し、実行することが、法令遵守と安全な工事の実施に繋がります。
事前調査は有資格者が実施
アスベストの事前調査は、専門的な知識と技術を有する有資格者によって実施されなければなりません。建築物と工作物では、それぞれ異なる資格が求められます。
〇建築物のアスベスト事前調査資格者
・特定建築物石綿含有建材調査者
・一般建築物石綿含有建材調査者
・一戸建て等石綿含有建材調査者
〇工作物のアスベスト事前調査資格者
・工作物石綿事前調査者
・一般建築物石綿含有建材調査者(一部の工作物)
・特定建築物石綿含有建材調査者(一部の工作物)
アスベスト分析調査は、さらに高度な専門知識と技術が必要となるため、公益社団法人日本作業環境測定協会や一般社団法人日本環境測定分析協会が認定する分析技術者やインストラクターが在籍する分析機関で行うことが求められます。
書面・図面調査と現地調査
事前調査は、まず書面・図面調査から始まります。これは、建築物や工作物の設計図書、竣工図、改修履歴などの資料を確認し、アスベスト含有建材が使用されている可能性のある箇所を特定する作業です。できる限りの情報を入手し、正確に把握することが重要です。
次に、現地調査が行われます。書面調査だけでは判別が困難な場合や、資料に記載されていない箇所がある場合に、実際に現場を目視で確認します。内装の内側や見落としやすい部分も含め、建築物や工作物の部屋や部位ごとの状況を詳細に確認することが大切です。
試料採取と分析調査
目視調査だけではアスベスト含有の有無を判断できない場合、またはアスベスト含有の疑いがある場合は、現地で疑わしい建材の試料採取を行います。採取された試料は、専門機関に送られ、分析調査が実施されます。
分析調査には、主に「定性分析」と「定量分析」があります。通常の工事では、アスベスト含有率が0.1%を超えているかどうかを調査する定性分析で十分とされています。この分析により、アスベストの有無とその種類が特定されます。
報告書の作成と電子システムによる提出
すべての調査が完了したら、その結果をまとめた報告書を作成します。この報告書は、解体工事開始の2週間前までに、労働基準監督署や各都道府県に提出する必要があります。
一般的に、アスベスト調査を行った機関が報告書を作成し、元請け業者はその報告書をもとに、国が運営する電子システム「石綿事前調査結果報告システム」を通じて報告を行います。このシステムは24時間いつでもパソコン、タブレット、スマートフォンからオンラインで報告を完結でき、自治体への報告と労働基準監督署への報告を一括で行える利点があります。複数の現場がある場合もまとめて報告が可能です。電子システムを使用できない場合は、書面での報告も認められています。
電子システムで報告を行うためには、認証システム「gBizID」に登録し、事前にアカウントを作成する必要があります。

出典:厚生労働省(2022)「石綿事前調査結果報告システムについて」https://www.ishiwata.mhlw.go.jp/result-reporting-system

出典:厚生労働省・都道府県労働局・労働基準監督署(2022)「事前調査結果の報告が施工業者(元請事業者)の義務になります!」https://FlnrjOG75ddW.jpg
まとめ:アスベスト報告義務化への適切な対応
アスベスト報告義務化は、解体・改修工事におけるアスベスト対策を強化し、作業従事者や周辺住民の健康保護を目的とした重要な法改正です 。床面積80平方メートル以上の建築物の解体工事、または請負代金100万円以上の建築物・工作物の改修・補修工事が報告義務の対象となります。報告義務がない場合でも、アスベスト事前調査自体はすべての工事で必須であり、有資格者による適切な調査と、その結果に基づく報告書の作成・提出が求められます。
アスベストに関する法令は複雑であり、常に最新の情報を把握し、正確に対応することが不可欠です。不明な点があれば、自治体の専門窓口や専門機関に相談し、適切なアドバイスを受けるようにしましょう。適切な事前調査と報告は、法令遵守だけでなく、安全で安心な工事環境を確保するための第一歩となります。
参考文献
[1] [厚生労働省] 石綿障害予防規則の解説
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyouroudou/roudoukijun/sekimen/jigyo/ryuijikou/index00001.html
[2] [環境省] 石綿事前調査結果の報告について
https://www.env.go.jp/air/asbestos/post_87.html
[3] [厚生労働省] 石綿事前調査結果報告システムについて
https://www.ishiwata.mhlw.go.jp/result-reporting-system
[4] [厚生労働省] 石綿障害予防規則など関係法令について
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyouroudou/roudoukijun/sekimen/jigyo/ryuijikou/index00001.html
[5] [厚生労働省] 工作物石綿事前調査者
https://www.ishiwata.mhlw.go.jp/investigator-structures/
[6] [環境省] 大気環境中へのアスベスト飛散防止対策について
https://www.env.go.jp/air/asbestos/litter_ctrl/index.html