【経営・管理リスクとしてのアスベスト対策】

解体・改修工事におけるアスベスト(石綿)問題は、建物オーナーや発注者が負うべき重大な法的リスクです。「知らなかった」では済まされない事故や訴訟トラブルを防ぐため、本記事では過去の重要判例・事故事例を紐解き、その教訓と対策を解説します。

今回取り上げるのは、国と建材メーカーを相手取って争われてきた建設アスベスト訴訟における大規模和解の成立事例です。この和解は、建物オーナーや不動産管理会社がアスベスト問題にどう向き合うべきか、その重要性を示すものです。

建設アスベスト訴訟、東京・大阪で大規模和解が成立

訴訟の背景と経緯

建設アスベスト訴訟は、建設現場でアスベスト建材に曝露し、中皮腫や肺がんなどの健康被害を受けた元建設作業員らが、国と建材メーカーに対して損害賠償を求めて全国各地で提起したものです。2021年5月17日には最高裁判決で国の損害賠償責任が確定し[1]、これを受けて建設アスベスト給付金法が成立しました[2]。

東京・大阪での大規模和解の内容

2025年8月、首都圏建設アスベスト訴訟の東京1陣・2陣訴訟、および関西建設アスベスト大阪2陣・3陣訴訟において、被告建材メーカーとの間で大規模な和解が成立しました。報道によると、東京高裁では建材メーカー7社が原告約400人に計約52億円を支払い[3]、大阪高裁では和解した21社のうち12社が原告115人(被害者67人)に計約12億4,600万円を支払う内容です[4]。東京高裁は2024年12月に「7社が約40億円を支払う」和解案を示しており[5]、成立時の総額はこれを上回りました。

和解の意義と残された課題

この大規模和解は、長年にわたる被害者救済に向けた大きな一歩となりました。しかし、和解の対象とならなかった一部の被災者(特に外装材取扱い職種や改修・解体作業関係者)については、建材メーカーの責任が否定されるなど、依然として課題が残されています。このことは、アスベスト被害の全容解明と、より広範な救済制度の確立が求められていることを示唆しています。

建物オーナーが直面するアスベスト問題の構造的課題

過去の調査・管理体制の不備

今回の訴訟事例は、過去の建物建設・改修におけるアスベスト使用の実態と、それに対する調査・管理体制の不備が根底にあることを浮き彫りにしています。多くの建物オーナーや管理会社は、アスベスト含有建材の存在を認識していなかったり、適切な調査や除去を行っていなかったりするケースが少なくありませんでした。

法規制の変遷と認識のギャップ

アスベストに関する法規制は、その危険性が広く認識されるにつれて強化されてきました。しかし、過去に建てられた建物においては、当時の法令に則って使用されたアスベスト建材が現在も残存しており、現行の厳しい規制との間に大きなギャップが生じています。このギャップが、解体・改修時の予期せぬアスベスト飛散リスクや、それに伴う法的責任問題を引き起こす原因となっています。

専門知識と情報不足による見落とし

アスベスト調査・分析には専門的な知識と技術が不可欠です。しかし、建物オーナーや不動産管理会社の中には、アスベストに関する専門知識が不足しているために、適切な調査機関を選定できなかったり、調査結果の評価を誤ったりするケースが見受けられます。これが、アスベストの見落としや不適切な処理につながり、結果として訴訟リスクを高める要因となります。

建物オーナーが取るべきアスベスト対策と法的責任

事前調査の徹底と正確な情報把握

現行の石綿障害予防規則では、解体・改修工事を行う前にアスベストの事前調査を徹底することが義務付けられています。建物オーナーは、この事前調査を専門知識を持つ機関に依頼し、建物のアスベスト含有状況を正確に把握することが不可欠です。調査結果は、工事計画に反映させ、作業員や周辺住民の安全確保に繋げる必要があります。

適切な除去計画と専門業者選定

アスベスト含有建材が確認された場合、その除去には専門的な技術と厳格な管理体制が求められます。建物オーナーは、アスベスト除去に関する実績と信頼性のある専門業者を選定し、法令を遵守した適切な除去計画を策定・実行することが重要です。不適切な除去は、健康被害だけでなく、高額な賠償責任を招く可能性があります。

定期的な点検と記録の管理

アスベスト含有建材が残存する建物については、定期的な点検を行い、その劣化状況を把握することが重要です。また、アスベストに関する調査結果、除去工事の記録、点検記録などを適切に管理し、将来的なリスクに備える必要があります。これらの記録は、万が一のトラブル発生時に、適切な対応を行った証拠となります。

法令遵守とリスクマネジメント体制の構築

アスベスト問題は、単なる工事上の問題ではなく、企業のコンプライアンスとリスクマネジメントに関わる重大な経営課題です。建物オーナーや不動産管理会社は、最新の法規制を常に把握し、アスベストに関するリスクマネジメント体制を構築することが求められます。これにより、「知らなかった」では済まされない事態を未然に防ぎ、社会的責任を果たすことができます。

国や企業への損害賠償請求の条件、和解の基準額、建設アスベスト給付金は「アスベスト被害の損害賠償Q&A|国・企業への請求条件と和解基準」で説明しています。

まとめ

建設アスベスト訴訟の大規模和解は、アスベスト問題が建物オーナーや不動産管理会社にとって依然として重大なリスクであることを明確に示しています。本事例から得られる最大の教訓は、アスベストに関する「正確な調査・分析」と「適切な対策」がいかに重要であるかという点に集約されます。

トラブル回避の第一歩は、「正確な調査・分析」から。

過去の事例が示す通り、アスベスト問題の多くは「事前の調査不足」や「検体採取・分析の甘さ」から発生しています。最大のリスクヘッジは、精度の高い調査・分析を行う専門機関に依頼することです。

当サイトでは、法令を遵守し、高度な技術を持つ優良な分析機関・調査会社のみを厳選してご紹介しています。

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アスベストの含有は、分析で確かめられます

設計図書や目視で判断できない建材は、検体を分析して含有の有無を確かめます。アスベスト分析センターは、1951年創業の建設会社・株式会社青野組が運営する分析サービスで、全国から検体の郵送で依頼できます。

・定性分析は1検体12,000円(税抜)から。複層の建材も層別の追加料金なし

・依頼書と検体が届いてから3営業日で結果をメールで送付(標準プラン。お得プランは7営業日)

・報告書はPDFでメール送付。様式第5号など行政への提出様式に対応

参考文献

[1] 裁判所「裁判例検索」最高裁判所第一小法廷 令和3年5月17日判決(平成30年(受)第1447号ほか)

[2] 厚生労働省「建設アスベスト訴訟に係るこれまでの経緯」

[3] 日経クロステック「建設アスベスト訴訟 東京高裁で和解成立、建材7社が400人に52億円賠償」

[4] 日本経済新聞「アスベスト訴訟、大阪高裁でも和解 建材12社が12億円支払いへ」

[5] 日本経済新聞「建設石綿訴訟、7社40億円支払い和解案提示 東京高裁」