なぜアスベスト調査は義務なのか?その重要性と背景を解説

 かつては耐火性や断熱性に優れるため広く普及したアスベストですが、現在はその微細な繊維が深刻な健康被害を引き起こす有害物質として知られています。

特に建物を解体する際には、建材が砕かれてアスベストが飛散する危険性が極めて高まります。そのため、事前の調査は作業員や近隣住民の安全を守るため不可欠です。事故を防ぐため、近年の法改正で、一定規模以上の工事ではアスベスト調査と結果報告が義務化されました。

 この義務を怠れば、行政からの罰則や指導を受けるだけでなく、企業の社会的信用を大きく損なうことにもなりかねません。法人として、調査の必要性を深く理解し、計画的に対応することが求められます。

あなたの建物は対象?アスベスト調査が義務付けられる建物の条件

 法改正によって、アスベスト調査が求められる建物の範囲は、以前よりも広範かつ明確に定められました。建物の解体やリフォームを計画している法人担当者様にとって、所有する物件が調査対象に該当するかを正確に把握することは、法令遵守とリスク管理の第一歩です。

調査義務が発生する建物の特徴

原則として、解体や改修工事を行う際、以下のような特徴を持つ建物はアスベスト調査が義務付けられています。

・1980年代~2004年頃に建てられた建築物

・屋根や壁、天井にスレート材やケイ酸カルシウム板などが使われている建造物

調査が免除される場合の具体例と注意すべき点

一方で、下記のようなケースでは調査が不要と判断されることもあります。

・ 2006年9月1日以降に着工された建物(アスベスト含有建材の使用が全面禁止された後)
・ メーカーの資料などで、使用建材にアスベストが含まれていないことが明確に証明できる場合
・ 塗装の上塗りなど、建材の除去を伴わないごく軽微なメンテナンス工事

 ただし、専門家の判断を仰がずに、対象外と見なすのは非常に危険です。万が一、判断を誤り調査をせずに工事を進めてしまうと、後に法令違反として罰則や行政指導の対象となる可能性があります。企業としては、建築確認通知書や設計図書といった客観的な資料に基づいて判断し、少しでも不明な点があれば専門業者や所轄の自治体へ事前に相談することが賢明と言えるでしょう。

3ステップで理解する!アスベスト調査の具体的な進め方

アスベスト調査は、現地をただ確認するだけの単純な作業ではありません。調査対象の洗い出しから分析方法の決定、行政への報告まで、法に定められた手順を踏む専門的な業務です。ここでは、標準的な調査の進め方を3つのステップに分けてご説明します。

ステップ1:図面確認と現地での目視調査

 まず初めに、建物の設計図書や仕様書などを確認し、アスベストを含んでいる可能性のある、断熱材などの建材を事前にリストアップします。その後、「建築物石綿含有建材調査者」などの有資格者が現地へ赴き、リストアップした建材が実際に使用されているか、またその状態はどうかを目視で詳細に確認します。

ステップ2:分析調査か、みなし措置かを選択

 現地調査後、具体的な調査方法を決定します。

・ みなし措置:建材の製造年や製品情報からアスベスト含有が明らかな場合や、逆に非含有が証明できる場合、分析を行わず含有の有無を判断します。分析を行わないため費用を抑えられますが、メーカーのカタログなど客観的な証拠が不可欠です。

・ 分析調査:最も確実性の高い方法です。現地で採取した建材のサンプルを専門の分析機関に送り、顕微鏡やX線回折装置を用いてアスベストの有無と種類を特定します。法的な証明力が高く、疑わしい場合にはこの方法が選択されます。

ステップ3:調査結果のとりまとめと行政への報告

 調査が完了したら、その結果を「石綿事前調査結果報告書」として正式な書類にまとめます。作成した報告書は、電子申請システムなどを利用して、管轄の都道府県や市区町村へ提出します。報告書には、調査対象の建材、採用した調査方法、調査者の資格情報、現場写真や図面などを漏れなく記載する必要があります。調査から報告までは通常1〜2週間ほどですが、分析する検体数が多い場合はさらに時間を要することもあります。

失敗しない!信頼できるアスベスト調査会社の選定ポイント

 アスベスト調査を依頼する際、単に料金の安さだけで業者を選ぶのは賢明ではありません。「対応の質」「報告書の正確性」「実績」「有資格者の有無」など、多角的な視点から信頼できるパートナーを見極めることが重要です。

ポイント1:調査実績と有資格者の在籍確認

 まず、企業のウェブサイトなどで過去の実績を確認しましょう。特に公共施設や大規模な商業ビルなど、複雑な案件の調査経験が豊富であれば、信頼性が高いと判断できます。「建築物石綿含有建材調査者」や「石綿作業主任者」といった専門資格を持つスタッフが在籍しているかもチェックすべき項目です。

ポイント2:費用の内訳が分かる詳細な見積書

 見積もりを依頼する際は、総額だけでなく内訳が明確に記載されているかを確認します。調査対象の範囲、分析方法、納期、追加調査が発生した場合の費用など、詳細で透明性の高い見積書を提示してくれる会社を選びましょう。

ポイント3:行政手続きに対応できる報告書の質と柔軟なサポート

 調査後に作成される報告書が、行政への提出要件を満たした正式なフォーマットであるかは極めて重要です。また、報告書の内容に修正が必要になった場合の対応や、その後のアスベスト除去工事に関する相談の対応など、サポート体制の充実度も比較のポイントになります。

ポイント4:迅速な対応が可能なエリアと調査後のフォロー体制

 事業所の所在地から近いなど、地理的に迅速な対応が可能な業者であるかも確認しておくと安心です。万が一の際の再調査や、調査後の行政からの問い合わせに対するフォローなど、アフターサービスがしっかりしている会社を選ぶことで、最後まで安心して任せることができます。

知らなかったでは済まされない!法令違反に伴う3つの重大リスク

 アスベスト調査が義務化された現在、調査の未実施や報告の不備といった法令違反には、法人に対して非常に厳しいペナルティが科せられます。以下では、調査を軽視した場合に企業が直面しうる、3つの重大なリスクについて解説します。

リスク1:厳しい行政処分と罰則

 事前調査の結果を報告しなかったり、虚偽の報告を行ったりした場合、大気汚染防止法に基づき、6か月以下の懲役または50万円以下の罰金が科されるおそれがあります。さらに、違反が悪質と判断されると、以下のような行政処分を受ける可能性も否定できません。

・ 事業の改善や一時停止を命じる行政命令
・ 公共工事の入札参加資格停止
・ 特に重大なケースでは企業名の公表措置

リスク2:「丸投げ」はNG!元請・発注者に課される法的責任

 実際に作業を行う下請け業者だけでなく、工事の元請企業や発注者にも、調査が適正に行われるよう監督する義務があります。仮に下請け業者に調査を「丸投げ」し、その結果不備が見つかった場合、元請企業が「安全配慮義務違反」に問われ、訴訟に発展するリスクを負います。調査結果を自ら確認し、記録・報告する責任を認識することが必要です。

リスク3:企業の存続を揺るがす社会的信用の失墜

 現代では、企業のコンプライアンス違反は、SNSなどメディアを通じて瞬く間に拡散されます。アスベスト調査の不備が公になれば、「安全意識の低い企業」というレッテルが貼られ、社会的信用が一瞬で地に落ちかねません。企業にとってそのダメージは計り知れず、経営の根幹を揺るがす事態に発展する可能性もあります。

まとめ:アスベスト調査義務化へ備え、企業が今すぐ着手すべきこと

 2023年から本格化したアスベスト調査の義務化は、すべての企業に対し、法的なリスク管理と社会的な責任の両面から、万全な対応を求めています。この記事では、調査の必要性から対象建物の見極め方、調査の具体的な流れ、信頼できる業者の選び方、そして違反した場合のリスクまでを網羅的に解説しました。

最後に、貴社が今後、アスベストに関して適切に対応していくために、取り組むべき事項を以下にまとめます。

企業が取り組むべき5つの必須チェック項目

1. 自社所有建物の建築年や改修履歴から、アスベスト使用の可能性を把握する。
2.予定している解体・改修工事が、調査義務の対象となるか確認する。
3.信頼のおける調査会社を複数挙げ、見積もりとサービス内容を比較検討する。
4.調査完了後、法に定められた形式で報告書を作成し、指定のシステムで行政へ提出する。
5.社内の管理体制や業務フローを見直し、コンプライアンス違反を防止する仕組みを構築する。

アスベスト問題は、過去に多くの健康被害と社会問題を生んだ経緯があります。今後、関連法規の改正や規制強化はさらに進むと予想され、対応の遅れは企業の経営に直接的なダメージを与えかねません。

本記事が、皆様の法令遵守、社内啓発、そして適切な業者選定の一助となり、貴社の安全と信頼性の確保に繋がることを願っております。