会社として建物を所有・管理するうえで、アスベストに関する知識と対策は避けて通れません。特に、昭和〜平成初期に建築された施設の解体や改修を予定しているのであれば、アスベスト含有建材が使われている可能性は高いため無対策で工事を行えば法令違反や健康被害を招くリスクもあります。アスベスト工事とは、アスベストを含む建材を安全に除去・封じ込め・囲い込むための専門的な工事のことです。作業には高度な技術と法的手続きが求められます。また大気汚染防止法や労働安全衛生法など複数の法律に基づいた届け出・報告義務が発生します。
特に法人にとっては、アスベスト工事に関する正確な理解が不可欠です。なぜなら、まず除去漏れが発生した場合、従業員やテナントに健康被害を及ぼすリスクがあるからです。そして法令違反が発覚してしまえば罰則や訴訟といった法的リスクにつながるからです。加えて、補助金制度を活用しないまま工事を進めると、予算超過による経営負担が発生する恐れもあります。また、信頼性の低い業者を選んでしまった場合、二次被害や工事不備などの深刻な問題を招いてしまうようなことも否定できません。
本記事では、アスベスト工事の基本知識から具体的な工法、費用相場、業者の選び方、補助金制度まで、法人が実務で活用できる情報を体系的にご紹介していきます。自社の資産を守り、社会的信用を損なわないためにも、まずは正しい知識を身につけることが重要です。
アスベスト工事が必要なケースとは?
自社がアスベスト工事を行う必要があるかどうか、まず判断すべきポイントは次の3つです。
【チェックポイント】
①建物の建築年代が昭和31年(1956年)〜平成18年(2006年)以前である
②解体・リフォーム・改修工事を予定している
③吹き付け材やスレート材など、アスベスト使用が疑われる建材がある
もしもこれらに1つでも該当するのであれば、法令に基づき事前調査と必要に応じたアスベスト工事が必須となります。
建物解体やリフォーム時に確認すべきポイント
会社の施設の場合は、オフィスビル、工場、商業施設、公共施設など多様な建物用途があり、それぞれに特徴的なアスベストリスクが存在します。たとえば、オフィスビルでは吹き付け材や天井裏断熱材にアスベストが含まれている可能性があります。工場やプラント施設では、配管の保温材やボイラー室周辺が特に注意すべきポイントです。商業施設の場合は、外壁材や床タイルの接着剤にアスベストが使われている事例も見受けられます。
さらに公共施設、特に学校や病院といった建物では、比較的古い施設ほどアスベスト含有リスクが高まってしまう傾向があります。用途ごとにリスクが異なるので、施設管理者は用途別にチェックポイントを把握しておきましょう。
そして、解体・リフォームを行う際は、必ず「アスベスト含有建材調査報告書」が必要になります。調査を怠った状態で工事を進めると大気汚染防止法違反で最大100万円以下の罰金が科される場合もありますので注意しておきましょう。
アスベスト含有建材の種類と特徴
続いてここでは、特に注意すべきアスベスト含有建材を以下にまとめます。
・吹き付けアスベスト:飛散性が極めて高く、最優先で除去対象
・保温材・断熱材:目視だけでは判別が難しいが、飛散リスク中程度
・成形板・スレート:屋根材・外壁材などに使用されている。飛散性は比較的低いが、削ったり割ったりすると危険
・床材(ビニル床タイル):気づかれにくいが要注意。老朽化したビルの床に多い
特に「自社の建物はRC造だから大丈夫だろう」といった安易な判断は危険です。必ず専門業者に依頼し、分析調査を行うことをおすすめします。
アスベスト工事の種類と手順をわかりやすく解説
アスベスト工事には、建材の状態や使用場所、リスクレベルに応じた複数の工法があります。会社所有の建物の場合、規模や用途に応じた最適な工法選びが重要です。以下、代表的な工法と手順を実務担当者向けにわかりやすく解説します。
除去工事(リムーバル工法)
最も根本的なアスベスト対策が除去工事です。特に「レベル1建材(吹き付け材)」や「レベル2建材(保温材・断熱材)」が対象です。
作業の方法としては、まず作業区域の完全密閉養生を行い、続いて負圧装置の設置と気圧管理を実施します。作業員は防護服とマスクを着用し、湿潤処理や飛散防止剤の散布を行います。最後に廃棄物を専用袋に封入し、適正な処理を行います。除去後は、石綿除去証明書の発行まで行うのが一般的です。
封じ込め工事(エンカプシュレーション)
除去よりも工期やコストを抑えたい場合であったり、アスベスト繊維の飛散リスクが比較的低い場合には、封じ込め工事が選択されます。この方法では、建材の表面に特殊な薬剤を塗布し、アスベスト繊維が空気中に飛散しないよう防止します。プラント施設の配管室など、広範囲にわたる断熱材が使用されている場所や、地下設備など構造的に解体が難しい箇所でこの方法を用います。施設の使用状況や工事の影響範囲を考慮しつつ、最適な工法を選ぶことが求められます。
囲い込み工事(カバリング)
建材そのものを取り除かず、ボードやパネルで完全に覆うことでアスベスト繊維の飛散を防ぐ方法が囲い込み工事です。この工法は短期間で施工できるため、営業や業務を止められない商業施設や公共施設などでも広く採用されています。ただし注意点もあり、将来的に建物を解体する際には、囲い込んだ建材を改めて除去する必要があります。また、囲い込んだまま放置すると内部の建材が劣化する恐れもあるため、定期的に劣化状況をチェックし、安全性を確認しなくてはなりません。
押さえておくべき工事前後の手続き
アスベスト工事を行う場合、以下の手続きを漏れなく行う必要があります。
【工事前】
・アスベスト含有調査結果報告書の提出
・作業計画書の作成
・特定粉じん排出等作業実施届出
【工事後】
・除去完了報告書の提出
・産業廃棄物処理マニフェストの保存
・近隣説明や社内関係部署への共有
このように、アスベスト工事は単なる現場作業だけでなく、法令遵守と書類管理を含めた包括的な対応が求められます。特に担当者は「ただ除去すれば良い」と考えず、全体フローを把握しておくことがリスク管理上必須です。
アスベスト工事の費用相場と補助金制度について
アスベスト工事は専門性が高い分、費用も大きくなりがちです。法人所有の施設の場合、工事規模も大きくなるため、事前に相場観を掴んでおくことが重要です。さらに、国や自治体による補助金制度を活用することで、コスト負担を大幅に軽減できます。
アスベスト工事費用の内訳と目安
以下は一般的な法人の施設(延床面積500㎡〜1,000㎡程度)を想定したアスベスト工事費用内訳の目安です。
・事前調査・分析費用:50万円〜200万円
・書類作成・届出費用:30万円〜100万円
・除去・封じ込め・囲い込み作業費:1㎡あたり15,000円〜80,000円
・養生・飛散防止措置費:工事費用の10〜20%相当
・廃棄物処理費用:1立方メートルあたり2万円〜5万円
・諸経費:全体費用の10〜15%相当
例えば、延床面積800㎡のオフィスビル全面改修の場合、総額1,000万円〜3,000万円程度が一般的な相場です。ただし、建材の種類や工法によって大きく変動します。
【見積書チェックリスト】
・工事費用以外に含まれる諸経費は明記されているか
・廃棄物処理や運搬費まで含まれているか
・届出・報告書作成費用が別途発生しないか
担当者はこのあたりを必ず確認しましょう。
自治体・国の補助金制度の活用方法
アスベスト工事は法令義務である一方、多額の費用がかかるため、国や自治体では各種補助金制度を設けています。特に中小企業や医療・福祉施設、学校などの法人に対して手厚く支援されています。
主な制度例として、環境省では石綿飛散防止対策費用補助金として最大費用の2/3まで補助を行っており、東京都では建築物石綿含有建材調査費補助を実施しています。また、大阪府では石綿除去工事助成金として上限500万円の助成制度を設けています。
一般的な申請の流れは、最初に管轄自治体のホームページで制度の詳細を確認することから始まります。その後、事前相談を行うか申請書類を提出し、審査を経て承認されると工事に着手できます。工事が完了したら実績報告書を提出し、確認後に補助金が支払われる仕組みとなっています。
※申請タイミングや必要書類は自治体ごとに異なるため、必ず最新情報を確認してください。
アスベスト工事業者選びのポイント
アスベスト工事を依頼する際、一番大切なことは「確実に法令を守り、安全な施工を行える業者であるのかどうか」です。費用や工期などといった短期的な目線だけで判断すると、後々大きなリスクを背負いかねません。ここでは、信頼できる業者を選ぶために押さえておきたいポイントを解説します。
信頼できる業者を見極めるチェック項目とその理由
まず、基本となる確認事項は以下の通りです。
・石綿作業主任者資格をもっているか
・特別管理産業廃棄物収集運搬業許可があるのか
・大気汚染防止法、労働安全衛生法関連の届出実績が豊富かどうか
・施工実績・法人案件対応の事例が確認できるか
これらは単なる条件ではなく、業者の信頼性を裏付ける重要な要素です。工事後に監査や社内チェックが入ることもあるため、コンプライアンス遵守が徹底された業者であることが前提となります。
チェックリストだけでなく、業者担当者との打ち合わせ時には「許可証の写し」「過去の施工実績書」など具体的な資料提出を求めましょう。優良業者であれば、こうした要望にも迅速かつ誠実に対応してくれるはずです。
アスベスト工事業者の資格・許認可について
アスベスト工事は法律で厳しく規制されており、実施するにはいくつかの資格や許可が必要となります。まず、作業を安全かつ適切に行うためには、石綿作業主任者技能講習修了証を取得していることが必須です。さらに、アスベストを含む廃棄物は特別管理産業廃棄物に分類されるため、特別管理産業廃棄物収集運搬業許可証を保有していなければなりません。
加えて、解体工事業やとび土工工事業などの建設業許可を取得していることも求められます。これらの資格や許可がそろっていない業者は法律上工事を行うことができないため、発注側である法人も必ず確認する必要があります。
これらを持たずに工事を行った場合、発注側も罰則対象となる可能性があります。また、補助金制度を活用しようと思うのであれば、これらの資格保有業者であることが必須の要件です。
現場見学や工事前打ち合わせの際に、業者側から資格証明書や許可証を提示してもらうことをおすすめします。信頼できる業者は必ず準備していますし、提示を渋るような業者は避けた方が無難でしょう。
まとめ|法人担当者が失敗しないためのアスベスト工事の進め方
アスベスト工事は、法人施設における安全管理や法令遵守に直結する重要な業務です。この記事を通じて押さえておくべきポイントを改めて整理します。
まず、対象建物の年代と建材を確認し、アスベストが含まれているかどうかを事前に調査することが必要です。その上で、除去・封じ込め・囲い込みといった工法の違いを理解し、自社施設に最適な方法を選択する判断力も求められます。
さらに、費用相場や補助金制度をしっかり把握し、無駄なく予算計画を立てることが、経営面でも重要なポイントです。加えて、信頼できる資格や許認可を持つ業者を慎重に選定し、工事前後の届出や報告義務を漏れなく実施し、社内関係部署と情報を共有する体制を整えておくことも不可欠です。
特に法人施設では、法令違反や事故が発生すると社会的信用に大きく関わります。担当者個人の責任だけでなく、会社全体のリスク管理としてアスベスト工事に取り組む意識が必要です。