アスベスト対象外=調査・報告が不要という意味ではない
アスベスト事前調査に関する「対象外」という表現は、解体・改修工事の現場や調査報告書でよく見かけます。一般には「アスベストが含まれていない」と受け取られがちですが、この言葉を理由に調査や報告の義務が免除されるわけではありません。
2023年10月の法改正により、全ての解体・改修工事では、建築物石綿含有建材調査者などの資格者による事前調査が原則義務化されました。この中で事前調査について「非該当」と判断されるのは、以下のような条件がそろっている場合に限られます。
・ 使用建材がアスベスト非含有であることを、設計図書や製品証明で立証できる
・ 製造年がアスベスト使用禁止(2006年9月)以降であると明記されている
・ 調査者が現地確認し、ガラス、金属、木材など材質自体には石綿が含有していないと判断できる
つまり「非該当」とは、調査そのものが不要という意味ではなく、「調査の結果、石綿含有建材が使われていなかった」と報告できる状態のことを指します。
誤解して“調査自体を省略する”判断をしてしまうと、法令違反や元請との契約不履行、行政指導のリスクが生じかねません。
したがって、「非該当」と判断された場合でも、その根拠となる書類の提示と関係者への報告義務は残ることを理解しておく必要があります。
「非該当」となる建材・工事の条件とは?
「アスベスト含有非該当」と判定されるためには、あいまいな印象や感覚的な判断ではなく、具体的かつ客観的な根拠が必要です。法人向けの調査・報告業務においては、以下のような条件を満たしていることが重要視されます。
① 製造年月がアスベスト禁止以降であることが確認できる
日本では、2006年9月1日以降、石綿を重量の0.1%以上含有する建材の製造・使用が原則として禁止されました。したがって、2006年9月以降に製造されたことを証明できる建材であれば、原則としてアスベスト非含有と見なされる可能性があります。
ただし、在庫流通や竣工時期とのズレもあるため、「竣工年」だけではなく、建材の製造ロット・納品書・型番を含めた証拠書類が求められます。
② 設計図書や製品カタログで「ノンアスベスト」と明記されている
施工前の設計段階で、「ノンアスベスト製品」を明記している設計図書や納品書があれば、それを根拠に「非該当」と判定できる場合があります。
この場合は、製品カタログやメーカー資料と照合し、型番や仕様と一致していることを第三者(調査者)が確認する必要があります。
③ 工事対象がアスベスト建材に該当しない明確な工種である
たとえば、内装のクロス貼り替えや外構フェンスの交換など、そもそもアスベスト建材が関係しない工種に限定される場合、非該当とされることがあります。
この場合でも、工事範囲図や施工手順書を添付し、「対象となる建材にアスベストが関係しないこと」が説明できる状態にしておく必要があります。
補足:非該当の判断は必ず有資格者の調査・報告が必要
重要なのは、「非該当」かどうかを事業者や元請が独断で判断してはいけないという点です。 2023年の法改正により、一定規模の工事では有資格者(建築物石綿含有建材調査者など)が調査を行い、その上で「非該当である」と報告する必要があります。
非該当条件を満たしていても、それを形式的に報告・証明するプロセスを怠ると、罰則や工事停止の対象になる可能性もあります。条件を満たしているかを判断するだけでなく、それを証明可能な状態に整えておくことが、責任ある対応と言えるでしょう。
いつまでアスベスト非該当でいられるのか?判断のポイント
アスベストに関する「非該当」という判定は、一度出たからといって永続的に保証されるものではありません。
特に、2023年の法改正を機に、調査義務の対象範囲や報告の要件が厳格化されたことで、「過去に非該当とされた建物」でも、再度の確認や新たな証明が必要となるケースが増えています。
本章では、担当者が「非該当の判定がいつまで有効なのか」「何をきっかけに再確認が必要になるのか」といった判断を行ううえで押さえておくべき視点を整理します。
築年数や建材情報だけでは判断できない
非該当とされる条件の一つに「製造年月」や「建材名」がありますが、それだけで判断するのは非常に危険です。なぜなら、
・ 建材の在庫流通期間が不明確である
・ 一部改修で旧建材が残っている可能性がある
・ 図面通りに施工されていない場合がある
など、実際の施工現場では設計情報と現況が一致しないことが頻繁に起こるためです。
したがって、築年数やカタログ情報に頼らず、現場確認や追加調査を行う姿勢が求められます。
2023年法改正による影響と「非該当」ルールの変化
2023年10月より施行された改正法により、解体・改修工事を行うすべての建築物について、事前に有資格者による調査が義務化されました。
この調査結果により「非該当」と判定される場合でも、その結果は永続的に有効ではなく、次のようなケースでは再調査や追加書類の提出が求められる可能性があります。
・ 工事内容に変更があった場合(例:部分改修→全面改修へ)
・ 建材の再利用や構造変更がある場合
・ 調査報告書の対象とした石綿がクリソタイル等の6種類、および含有判定が0.1%以下の基準でない場合
・ 自治体や元請業者が最新情報を求める場合
特に、調査報告書や非該当証明書には法的に明記された有効期限はありませんが、発注者や元請が「半年以上前の調査報告は再調査を依頼する」など、慣習的な期限管理をしている場合があります。
このように、「非該当」とされたからといって、そのまま永続的に通用するわけではなく、法令・工事条件・関係者の要請などによって再評価が必要になる可能性があるという前提で対応することが大切です。
調査が不要になる具体的なケースとは?
アスベスト調査は、2023年10月の法改正以降、原則としてすべての解体・改修工事で義務化されています。
しかし、一定の条件を満たした場合に限り、資格者による詳細な現場調査を省略できる「非該当扱い」となることがあります。ここでは、調査が不要とされる代表的なケースを紹介します。
設計図書・製造年月で明確に非該当と確認できる場合
最も一般的なのは、設計図書や納品書、製品カタログなどの証拠資料によって、使用建材が「アスベスト非含有」であることが確実に立証できるケースです。
具体的には以下の条件が挙げられます。
・ 製品カタログに「ノンアスベスト」と明記されている
・ 2006年9月以降に製造されたことが証明されている
・ 型番やロット番号が資料と一致している
これらの証拠が揃っていれば、書面調査のみで「非該当」と判定される場合があります。ただし、資格者による最終確認は不可欠です。
非飛散性建材などリスクが極めて低い建材を扱う場合
アスベストを含んでいても、非飛散性(レベル3)建材に該当する場合や、解体・加工を伴わない工事では調査が省略されることがあります。
例としては以下が挙げられます。
・ 洗面台やトイレ、ガスコンロの入れ替え
・ ワックスがけ、コーティング、ハウスクリーニング
・ タイル張り、防水工事
ただし、工事方法によって飛散の可能性が少しでもある場合は調査が必要です。
このように、調査不要とされるのはあくまで「例外」です。判断を誤れば法令違反や元請・自治体とのトラブルに発展する可能性があるため、必ず資格者に相談し、非該当証明書を添付することが法人対応として望ましいと言えます。
「非該当」と判定された場合にやるべきこと
アスベストの事前調査で「非該当」と判定されたからといって、すべての法的手続きが不要になるわけではありません。特に2023年の改正法施行以降、非該当であっても一定規模以上の工事では調査報告書や証明書の提出義務が発生します。
この章では、法人として「非該当判定後」に行うべき対応について整理します。
調査報告書や非該当証明書は必要?
非該当とされた場合でも、次のような工事では法令に基づき、調査報告書の提出が義務付けられています。
・ 改修工事:請負金額100万円以上、または対象建材の面積が80㎡以上
・ 特定建材の除去・処理を伴う工事
このようなケースでは、「非該当」の根拠を明記した調査報告書や、有資格者による非該当証明書(調査報告書内で記載)を添付して、工事着手前に自治体や労働基準監督署へ提出する必要があります。
証明書には以下のような情報が含まれます。
・ 建材の型番・製品名・メーカー名
・ 非アスベスト製品であると証明できる資料の出所
・ 現地確認の有無と調査方法
・ 建築物石綿含有建材調査者の署名と登録番号
非該当とされた後も油断は禁物!よくある誤解と注意点
アスベスト調査で「非該当」と判定されると、多くの担当者が「もう大丈夫」と安心してしまいがちです。しかし、この「非該当」という言葉には、多くの誤解がつきまとっています。
本章では、実務で起こりやすい誤解やトラブル事例、対応のポイントについて解説します。
「非該当=安全」ではない?解体時の思わぬリスク
非該当とされた建材でも、解体方法や現場状況によっては飛散リスクが生じることがあります。
たとえば以下のようなケースは、注意が必要です。
・ 設計図書では非該当だが、現場で異なる建材が使われていた
・ 表層材は非アスベストでも、下地材に旧建材が残っていた
・ 解体時に思わぬ破砕・摩擦が発生し、粉じんが飛散した
このようなリスクを見逃して工事を続行すれば、周辺環境への影響や法令違反に問われる可能性もあります。そのため、たとえ非該当と判断されていても、現場管理者は常に「例外や想定外が起こりうる」ことを前提に工事を進める姿勢が必要です。
途中で判定が変わることもある?
「着工前に非該当だったのに、工事中に調査が必要になった」
──これは実際に起こりうる事例です。
以下のような場面では、「非該当」判定が見直し対象となる可能性があります。
・ 天井裏・床下・外壁の開口時に想定外の旧建材が露出した
・ 工事範囲の変更(例:部分改修 → 全面改修)により新たな建材が対象になった
・ 元請や自治体が、より詳細な報告を求めてきた
このような場合は、作業を一時中断し、追加調査・分析を実施する必要があります。「非該当」だからといって油断せず、調査資料は常に携行し、現場での確認と連絡体制を整えておくことが、法令順守と安全管理の両面で重要です。
「非該当」の判定は、あくまで“現時点での判断結果”であり、“今後も変わらない保証”ではないという意識が不可欠です。過信せず、常に慎重な姿勢で現場対応を行うことが、事故・違反・信用低下を未然に防ぐことにつながります。